受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第45話 冒険者になりたそうにこちらを見ている 》

 僕たちはマリンちゃんの案内でギルドへ向かった。


「ここがギルドです!」

「可愛いギルドなのだ~」


 ギルドはキノコ型だった。

 きっとキノコが町の名物だからだろう。ガーネットさんも『山菜が美味しい』って言ってたし。

 3人でギルドに入ると、屋内はこぢんまりとしていた。

 窓口が三つしかなく、そのうちひとつは閉鎖中。そして壁には『受付嬢募集中』のポスターが貼られていた。

 とはいえ、ふたつの窓口でも対応できているようだ。

 ギルドには僕たちしか冒険者がいなかった。


「王都のギルドと全然違うのだ……」

「ここまで冒険者が少ないのは珍しいけど、それだけ平和な証拠だよ」


 魔獣がうじゃうじゃいたら、地元を守るために大勢が冒険者になるからね。

 ただ、町側は冒険者を増やしたいと思っているようで、壁には『冒険者募集中』のポスターが貼られていた。

 ドラミがポスターをまじまじ見る。


「この下、なんて書いてあるのだ?」

「いま冒険者になれば、武器一式を提供してくれるらしいよ」

「そ、それはお得なのだ……! どんな武器がもらえるのだ?」

「さあ、そこまでは書いてないけど……」

「ふむ。つまり確かめるには冒険者になるしかないということなのだ……」


 もらえる武器に興味津々なドラミのとなりでは、マリンちゃんがさっそく受付嬢に話しかけていた。


「クエストを受けに来たです!」

「おや、よく来たねマリンちゃん」


 受付嬢は、お婆ちゃんだった。孫と触れ合うような優しい眼差しでマリンちゃんを見つめている。


「今日はどのクエストを受けるんだい?」

「これにするです!」


 きりっとした顔で、リストを指さす。

 その堂々とした姿に、ドラミは感心した様子。


「歴戦の冒険者っぽいのだ……」

「僕たちと別れたあとも、ギルド通いを続けたんだろうね」

「頑張ってて偉いのだ……」


 褒められてるのが聞こえたのか、マリンちゃんはうっすらと頬を染める。

 それからギルドを出ると、ドラミが興味深げにたずねた。


「どんなクエストを受けたのだ?」

「ベビーマンドラの討伐です!」

「マンドラゴラの幼体だね」

「そいつは強いのだ?」

「成体になると三つ花クラス相当の魔獣になるよ」

「ウィングベアと同格……強敵なのだ……」


 ドラミはぞっとしている。

 マリンちゃんも不安そうだ。


「早く三つ花クラスになりたいです。じゃないと、マンドラゴラと出会ったら大変な目に遭うです……」


 でも、と力強く拳を握りしめ、


「わたしは逃げないです! 頑張って魔獣を倒して、町のみんなを守るです!」

「立派すぎるのだ……!」


 ドラミに拍手され、マリンちゃんは照れくさそうに謙遜する。


「ほんとは怖いですけどね。だけど、ドラミちゃんたちと買ったミスリルの盾を身につけると、勇気が湧いてくるですよ!」


 ひとりで魔獣と戦い続けたからか、以前に増してミスリルの盾が似合っている。

 キラキラと輝く盾を見て、ドラミはちょっぴり羨ましげだ。


「ドラミもドラミソードっていう最強の武器を持ってたのだ……」

「かっこよさそうです! いまはお家にあるですか?」

「ボス猫との激闘で、失ってしまったのだ……。ドラミに勝てないからって、武器を奪うのはズルいのだ……!」

「ボス猫、知恵がまわるですね……!」

「賢い奴だったのだ……。でも次は勝つのだ! そして奪われたドラミソードを取り戻すのだ!」

「わたしも手伝うです!」

「心強いのだ! ……でも、相手は強敵なのだ。マリンを危険な目に遭わせたくないのだ……」

「危険は覚悟の上です……! それにわたし、強くなったですから! ぜったい役に立てるです! 見ててください!」


 勇ましく声を上げ、マリンちゃんが一つ花のパワーを見せる。その場でぐっと身を屈め――

 どんっ!

 と大ジャンプ。ドラミの頭上を飛び越え、すたっと着地する。


「すごいのだ……! それならボス猫が高いところに逃げても捕まえることができるのだ!」

「褒めてくれてありがとうです! でも、まだまだこんなものじゃないです!」


 マリンちゃんが、どんっと地を蹴った。

 びゅっと走り、びゅっと戻ってくる。

 大人顔負けのスピードだ。


「す、すごいのだ! これならボス猫を捕まえられるのだ!」

「一緒にドラミソードを取り戻すです!」


 ふたりはハイタッチを交わす。

 ほほ笑ましい光景だけど……


「さっきので花紋の力を使い果たしちゃったんじゃない?」


 しまった、と頭を抱えるマリンちゃん。


「やりすぎちゃったです……」

「力を使い果たすとどうなるのだ?」

「しばらくのあいだ、ただのマリンになってしまうです……」


 一つ花クラスのクエストとはいえ、花紋なしで挑むのは危険だ。

 安全のためにも花紋の力が回復するまで待ったほうがいい。


「回復にどれくらいかかるのだ?」

「30分くらいです」

「だったら食事休憩しよっか?」

「さんせーなのだ!」

「美味しいお店に案内するです~」


 マリンちゃんの案内で、町を散策することに。

 さっき素通りした広場にやってくると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「あそこです!」


 マリンちゃんが指さしたのは、焼き魚の屋台だった。

 王都じゃあまり見ない販売スタイルだ。

 ドラミは屋台へと向かい、串刺しの魚が焼きあがる姿を興味深げに眺める。

 もうもうと煙が立ちのぼり、パチパチと爆ぜる音が響くなか、煙たそうに咳きこみつつも、目を逸らそうとはしなかった。


「……美味しそうなのだ」

「焼きたては絶品です!」

「早く食べたいのだ!」


 ドラミに視線でおねだりされ、僕は店主に声をかける。


「すみません、焼き魚を三つください」

「わたしもいいんですか? お金、持ってるですけど……」

「気にしないで。お店に案内してくれたお礼だよ」


 にこやかに告げ、ふたりに串焼き魚を渡す。

 そして広場のベンチに腰かけると、ふたりが焼き魚のお腹にかじりついた。


「あひゅっ、あひゅっ」

「はぐはぐ……あひゅっ」

「塩気が身体に染み渡るのだ……あひゅっ」

「美味しすぎです……あひゅっ」

「ほんとだ。美味しいね!」


 パリパリに焼けた皮を破ると、じゅわっと脂が滲み出てきた。

 塩加減が絶妙だ。

 脂の乗った身にほどよく塩気が染みこんでいて、飽きずにぺろっと平らげることができた。


「美味しかったのだ~」


 満足そうにお腹をさするドラミ。

 せっかくの旅行だし、もうちょっとご当地料理を食べさせたいけど……

 夕食前に食べすぎるのはよくないよね。


「さて、そろそろ行こっか」


 元気よくうなずくふたりとともに、僕たちは広場をあとにした。

 そのままマリンちゃんの案内で湖のほうへ向かい、船着き場へ。


「船に乗るのだ?」

「はいです。ボートで対岸に行くですよ」


 対岸には牧草地が広がっていた。

 ドラミは「むっ?」と眉をひそめ、オペラグラスを取り出す。


「かっこいいです!」

「ジェイドに買ってもらったのだ~! マリンのぶんもあるのだ!」

「ええ!? わたしのもあるですか!?」

「お土産なのだ~。お家に帰ったら渡すのだ~」

「楽しみです~!」

「それで、なにを見てるの?」

「向こう岸になにかいたのだ。あれは……牛なのだ?」

「牛さんです。放牧されてるですよ」

「牛が間違ってベビーマンドラを引っこ抜いたら怪我するから、マリンちゃんが討伐するってわけだね」

「はいです! さっそく戦いに行くですよ……!」


 意気込み、ボートをレンタルする。

 冒険者はボートを無料で借りられるようだ。船着き場のおじさんにお礼を告げて、僕たちはボートに乗りこんだ。

 体力を温存させるため、僕がボートを漕ぐことに。

 10分ほど漕いでいると、対岸に到着。ボートが流されないようロープで固定し、いざ牧草地へ。

 ドラミはオペラグラスで用心深くあたりを見まわす。


「ベビーマンドラ……どこにいるのだ?」

「普段は地中にもぐってるです。怪しい草を引っこ抜くですよ」


 マリンちゃんは、おそるおそる草を引っこ抜く。

 だけど、ただの怪しい草だった。

 もう一度、おそるおそる草を引っこ抜く。

 だけど、ただの怪しい草だった。


「な、なかなか出てこないのだ……」

「油断したところで当たりを引いちゃうパターンもあるです……」

「最後まで気を抜けないのだ……」


 どきどきするマリンちゃんと、ハラハラしながら見守るドラミ。

 ちなみにベビーマンドラはマリンちゃんの立ってる場所から20歩ほど右に進んだところにいる。

 ベビーマンドラの葉っぱは、わずかに赤らんでいるのだ。

 その特徴にさえ気づけば見つけるのはさほど難しくないけど……

 自分で気づかないと成長に繋がらないもんね。

 だけど、このペースだと見つける頃には日が暮れちゃうし……それとなくヒントを出そうかな。


「あの辺りにいそうだね」

「あっちです?」

「見たところ、なにもなさそうなのだ……」

「ちょっとそれ借りていいです?」

「どうぞどうぞなのだ」


 オペラグラスを借り、マリンちゃんが目を凝らす。

 むっ、と眉をひそめ、てくてくと歩いていき――

 ハッとする。


「あ、あれだけ葉っぱの先っぽが赤いです!」

「……あっ。ほんとなのだ!」

「そ、そういえば、いままでのベビーマンドラも赤かった気が……」

「もしかして、それってベビーマンドラの特徴なのだ?」

「うわあっ、大発見です!」


 ひとまずハイタッチで喜びを分かち合う。

 そして、マリンちゃんは剣を抜いた。

 盾を構えたまま、じりじりと前進。剣の先端で土を刺激すると――


「キィイィイイイイイイイイイ!」


 甲高い鳴き声を上げ、ベビーマンドラが飛び出してきた。

 マリンちゃんが一瞬たじろぐ。

 その隙を突き、ベビーマンドラが根っこをムチのように振るう。

 咄嗟に盾でガードするマリンちゃん。


 ぺしぺし!
 ぺしぺし!


「な、なんて怖ろしい攻撃なのだ……!」

「こ、これ、当たるとミミズ腫れになっちゃうです……!」

「ひええ……痛そうなのだ……」

「つぼみクラスだったら、たぶん痛すぎて泣いちゃってたです。――だけど、いまのマリンは一つ花です!」


 全身を硬く強化したのだろう。マリンちゃんは盾を構えたまま臆せずに前進する。

 そしてベビーマンドラが間合いに入った瞬間――


 ずばっ!


 剣を振るい、ベビーマンドラを真っ二つにした。

 もわっと魔素が出て、花紋に吸収されていく。


「うおおお! カッコイイのだ!」

「一撃だったね!」


 マリンちゃんは照れくさそうにはにかみ、ベビーマンドラから種粒みたいな魔石を回収する。


「これにてクエスト攻略です!」

「お見事なのだ!」

「そ、それほどでもないです……」

「ほんとにすごかったのだっ! あんなにバシバシ攻撃されてたのに堂々と進んで、ずばっと倒して……歴戦の冒険者って感じがしたのだ!」

「いつもはもっと苦戦するですけどね。ドラミちゃんたちがいてくれると心強くて、落ち着いて戦うことができたです」

「スムーズに倒せたのはマリンちゃんの実力だよ」

「嬉しいです……。わたし、もっともっと実力をつけて、いつかきっとジェイドくんと十つ花のクエストを攻略してみせるです!」


 力強く意気込むマリンちゃん。

 そのとなりで、ドラミが羨ましそうな顔をしていた。


「ドラミも一緒にクエストを攻略したいのだ……」

「もちろん、そのときはドラミちゃんも一緒です!」

「だけどドラミ、応援することしかできないのだ……一緒に戦いたいのだ……」

「だったら、ドラミちゃんも冒険者になればいいですっ! 一緒にクエストできたら嬉しいです!」

「それは楽しそうなのだ……」


 ドラミはうっとりとした顔をする。

 カッコイイ武器を手に、マリンちゃんと勇ましく野原を駆けている姿を思い浮かべているみたい。

 だけど夢から覚めたような顔をして、


「ドラミは冒険者になれないのだ……」

「まだ12歳じゃないです?」

「年齢はわからないのだ。だけど12歳でも無理なのだ。だって、ドラミはドラゴンなのだ……」

「た、たしかにドラゴンが冒険者になったって話は聞かないですけど……」


 マリンちゃんは、落ちこむドラミになんて声をかけようか悩んでるみたい。

 ややあって、そうだっ、と声を弾ませる。


「このあとぺろぺろキャンディーをご馳走するです!」

「い、いいのだ?」

「はいです! ギルドでお金をもらえるですからね!」

「で、でも、マリンが頑張って手に入れたお金だから、マリンの好きなものを買うといいのだ」

「わたしはドラミちゃんとぺろぺろキャンディーを食べたいですっ!」


 ぎゅっと手を握って笑いかけると、ドラミは明るくうなずいた。

 そうして僕たちは町へ戻り、ぺろぺろキャンディーを舐めるのだった。