受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第41話 英雄の依頼 》

 その日の昼下がり、僕たちはスンディル王国の王都に帰ってきた。


「うおおおお! ドラミは帰ってきたのだあああああ!」

「おかえりなさい! ジェイドさん! ドラミさん!」

「ただいまです」

「ただいまなのだ~!」


 町のひとに元気よく挨拶を返すと、ドラミはオペラグラスを目に当てる。

 街並みを見渡して、故郷に変わったところがないか確かめているようだ。パン屋を見て、散髪屋を見て、銅像を見て――満足そうな顔をする。


「変わらない街並みが、ドラミを出迎えてくれたのだ……」

「よかったね」

「変わってなくてよかったのだ! だって、ドラミはこの町が大好きなのだっ!」


 ご飯を食べたり買い物したり、楽しい思い出をいっぱい作ったもんね。

 さてと。


「じゃあギルドに行こっか?」

「行くのだ~! みんなに冒険譚を聞かせてあげるのだ~」


 僕たちはギルドへ向かう。

 いつものように出入り口前にドラミを待たせ、ひとりでギルド内へ。

 冒険者に挨拶を返しつつ18番窓口へ向かい、思わず目を奪われる。

 いつ見ても可愛いな……。

 ガーネットさんに出迎えられると、僕も王都に帰ってきたって感じがするよ。


「どうもこんにちは、ジェイドです! クエストを攻略しました!」

「ジェイド様ですね。少々お待ちください」


 淡々とした声だけど、ちょっとだけ明るかった。それに口元がわずかにほころんでいる!

 嬉しいなぁ。ガーネットさん、僕の帰りを喜んでくれてるんだ。


「ナイトメア討伐のクエストですね。では魔石を拝見させていただきます」

「はい! これがナイトメアの魔石です!」

「……確認できました。こちら報酬2500万ゴルの小切手になります」

「ありがとうございます!」


 小切手をポケットに入れ、ギルドを出る。

 ギルド前では、いつものようにドラミが子どもたちに囲まれていた。

 ……だけど、今回はいつもより集まりが悪かった。


「そうして悪夢を司る魔獣・ナイトメアは滅びたのだ……」

「今回の冒険譚、怖すぎだよ……!」

「今日ぜったい悪夢見ちゃうよ……」


 ナイトメアの話を聞き、子どもたちがぶるりと震える。

 ドラミは笑顔で、


「だったら楽しい冒険譚を聞かせてあげるのだ!」

「やったー!」

「ナイトメアを倒したジェイドとドラミは、リーンゴック王国の王都へ向かったのだ。そこでは王様の生誕祭の真っ最中だったのだ!」

「お祭りいいなー」

「あれは一度は行くべきなのだ……。美味しいものがいっぱいあったし、しかも――じゃじゃーん! これ買ってもらったのだ~」

「か、かっけー!」

「これはオペラグラスなのだ! しかもリーンゴック王国の紋章がついてるのだ!」

「す、すげー!」

「世界を股にかける冒険者って感じ!」

「しかもドラミ、リーンゴック王国中から可愛い娘が押し寄せる可愛いコンテストで堂々の2位だったのだ!」

「準優勝したの!?」

「これが審査員の心を掴んだ曲なのだ!」


 ドラミがぎらぎら星を演奏する。

 そして演奏が終わった瞬間、拍手喝采!

 大絶賛され、ドラミはご満悦だ。

 さて。冒険譚は終わったようだし、そろそろいいよね。


「ドラミ、そろそろ帰――」

「あっ、ドラミちゃん! 帰ってきてたんだ!」


 と、女の子たちが集まってきた。

 いつも目を輝かせてドラミの冒険譚を聞いている子どもたちだ。


「うむ。さっき帰ってきたのだ。今回はナイトメアと戦っ……」


 ドラミが目を見開いた。

 ぷるぷると震えつつ、女の子たちの手の甲を見る。

 そこには、つぼみの花紋が浮かんでいた。


「ああ、これ? わたしたち、冒険者デビューしたんだ~!」

「ええ!? 冒険者になったのだ!?」

「うん! さっきスライム倒したとこ!」

「ぶよぶよしてて手強かったよ~」

「へ、へえ、それはおめでとうなのだ!」

「ありがと! これから換金して、またクエスト受けて、お金を稼いで、強い武器を買うの!」


 楽しげな笑みを浮かべてそう言うと、女の子たちはギルド内へ駆けていく。

 さて。


「そろそろ帰ろっか?」

「う、うむ。帰るのだ……」


 さっきまでのはしゃぎっぷりはどこへやら。ドラミはとぼとぼと僕のあとをついてくる。


「どうしたの? 元気ないけど……」

「べ、べつにどうもしてないのだ!」

「どうもしてないようには見えないよ。さっきの子たちと関係あるんじゃない?」

「ど、どうしてわかったのだ!?」

「顔を見ればわかるよ、友達なんだから。子どもたちが冒険者になって、焦ってるんだよね?」

「そ、その通りなのだ……だって、冒険者デビューしちゃったら、ドラミの冒険譚がつまらなくなっちゃうのだ」

「それはそれ、これはこれだよ。冒険も楽しいけど、ドラミの冒険譚も楽しいよ」

「でも、いつか見破られちゃうかもなのだ……。冒険譚みたいな冒険ができるほど、ドラミはたくましくないって……」

「そんなことないよ。ドラミはたくましいよ。だって僕と出会うまでひとり旅してたじゃない」

「それは遠い昔の話なのだ……」


 昔ってほど昔じゃないけど……幼いドラミにとっては、遙か昔に思えるのかな?


「いまのドラミは、ジェイドなしじゃなにもできないのだ……」

「だったらさ、ひとり旅してみる?」


 僕なしでもなんとかなるとわかれば自信を取り戻せるはずだ。


「で、でも、ドラミはジェイドのそばを離れちゃだめなのだ……国王にそう言われたのだ」

「ひとりで遠出させるのは僕も気乗りしないけど、近所におつかいに出るくらいなら問題ないよ」

「それって旅なのだ……?」

「もちろん。ドラミくらいの歳の子にとっては大冒険だよ。しかも、自分で言うのもなんだけど、僕は英雄だから。英雄におつかいを任されて、それをひとりで達成したって聞いたら、子どもたちも『す、すごい……!』って褒めてくれるよ」

「おお! おおお! す、すごいのだ……! そのおつかい、やり遂げたいのだ!」


 ドラミはびっくりするくらい乗り気だ。

 よかった。これで自信を取り戻してくれそうだ。


「ドラミはなにをすればいいのだ!? なんでも頼むといいのだ!」

「じゃあ、仕立て屋に寄ってワンピースを引き取ってきてくれない?」

「任せるのだ!」

「あと、仕立て屋でワンピースに着替えて、いま着てる服は洗濯屋に届けてほしいな」

「どんと来いなのだ!」


 ドラミが元気を取り戻したところで、家に帰りつく。

 そして、すぐにでも出かけたそうなドラミにお金を渡すと、意気揚々と出発したのだった。

 はじめてのおつかい、上手くいくといいな。