受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第38話 可愛いコンテスト 》

 その日の昼前。

 クエストを攻略した僕たちはリーンゴック王国の王都にやってきた。

 通りには露店が軒を連ね、大きな人形のパレードが行われている。

 賑々しさを前にして、ドラミはぽかんと口を開ける。


「なんだかお祭りみたいなのだ……」

「ほんとにお祭りみたいだよ。ほら」


 ポスターには国王様の生誕祭に関する記述があった。

 5日間開催されるようで、今日は2日目みたい。


「ちょうどいい日に来られてよかったね」

「うむ。これは遊ぶしかないのだ! ……時間は平気なのだ?」

「うん。平気だよ」


 僕たちには『ガーネットさんの実家へ行く』という絶対に外せない予定がある。

 恋人の実家に初訪問――。

 そんな運命の日まで残り10日。あまりのんびりしている時間はない。

 ……けど、ここへ来たのはオニキスさんの情報を探すためだ。

 このあとギルドへ向かうわけだが、前回同様調査に数日かかるはず。

 つまり祭りを楽しむ余裕はあるのだ。


「とりあえずギルドに行こう」


 僕たちはギルドを目指す。

 リーンゴック王国の王都に来るのははじめてだ。通りがかったひとに場所を聞き、そちらへ向かう。

 そしてギルドに入ると、お酒の匂いが漂ってきた。

 酒場が併設されてるようで、酒盛りしてるひとたちで賑わっていた。


「すみません。おたずねしたいことがあるんですけど」


 正面カウンターにいた受付嬢に声をかける。

 事情を説明し、ギルドマスターの紹介状を見せると、少々待つように言われた。

 ほどなくしてお爺さんが歩み寄ってくる。王都のギルドマスターだ。かつて冒険者だったのか、とても屈強そうだ。

 少し強面なお爺さんに怯えたのか僕の背中に引っこむドラミだったけど、親しげな笑みを向けられて安心した様子。

 べつに最初から怖がってませんでしたよ、みたいな顔で僕のとなりに立つ。


「紹介状、拝見させていただきました。ぜひジェイド様のお力にならせてください」

「ありがとうございます! お忙しいところすみません」

「いえ、ちょうど国王陛下の生誕祭でギルドの利用者が減っていたところですので。ただ、調べるのに5日はかかるかと思いますが……」

「全然問題ありません!」


 5日なら帰省に間に合うし、調査に時間がかかるってことはそれだけ利用者が多いってことだ。

 オニキスさんが訪れてる可能性も高い。


「では5日後にまたお越しください」

「はい! お願いします!」


 今度こそオニキスさんの手がかりが見つかるかも!
 
 期待に胸を膨らませ、僕たちはギルドをあとにする。

 さてと。


「なにか食べる?」

「食べたいのだ! さっき向こうにお肉があったのだ!」


 ドラミの案内で露店が軒を連ねた通りを進む。

 甘い匂いやスパイシーな匂いや少し焦げた匂いが漂い、ドラミは物欲しそうに足を止めてしまう。

 が、やっぱり最初は肉の気分なのか、誘惑を払うように首を振って歩いていく。


「これっ! これが食べたいのだ!」


 そして肉の串焼きを購入すると、がぶっとかじりついた。


「あちゅ!」

「慌てて食べると危ないよ」


 ふーふーして、がぶっと噛みつき、串から肉を引っぺがす。

 はぐはぐ。
 もぐもぐ。

 なかなか二口目にいかず、ずっと噛み続けている。

 口に詰めこみすぎて飲みこめないのかな?


「噛めば噛むほど味がするのだ……」

「ああ、そういうこと……」


 たしかに噛めば噛むほど肉の旨みが滲み出る。

 塩加減も絶妙で、子どもの舌にも合いそうだ。

 もぐもぐと噛み続け、じっくりと肉を味わい――


「ごちそうさまなのだ~!」

「美味しかったね」

「うむ。塩辛いものを食べたあとは甘いものが欲しくなるのだ! さっきの店に引き返すのだ~!」


 来た道を引き返し、揚げパンを購入。

 砂糖をたっぷりまぶした揚げパンにかじりつき、頬をとろけさせている。


「サクサクとした食感……癖になるのだ。ジェイドにも一口あげるのだ」

「ありがと。……うん。甘くて美味しいね」


 だけど喉が渇いちゃったな。


「なにか飲む?」

「ジュースがいいのだ! あっちにフルーツジュースがあったのだ!」

「ほんと、よく見てるね」


 揚げパンを頬張るドラミとジュースを買いに行き、ベンチで一休みする。

 食べたいものを食べ、喉を潤したドラミは、上機嫌そうにお腹を撫でた。


「ぷはー! お腹いっぱいなのだ~」

「一休みしたら宿屋を探す?」

「もうちょっと見てまわりたいのだ! 食後の運動なのだ~」

「じゃあさ、運動がてらお土産を探そっか」

「探すのだ! すごいお土産を見つけて『こ、これはすごいですっ!』ってマリンをびっくりさせたいのだ!」

「僕もガーネットさんのお母さんに『すごい!』って言われたいよ!」


 素敵な恋人だと思ってもらうためにも、最高のお土産を見つけないとね!

 僕たちは露店を巡り、お土産選びを開始した。


「あっ! ケーキなのだ!」

「可愛いケーキだね。でもすぐに食べないと腐っちゃう……って、これアロマキャンドルだよ」

「ケーキの仲間なのだ?」

「ううん。ロウソクだよ。火をつけて香りを楽しむんだ」

「食べられないのだ……?」

「食べたらお腹を壊しちゃうけど……でも、お土産にはいいかもね」


 心地良い香りに包まれれば、仕事の疲れが落ちそうだ。

 ガーネットさんたちに買って帰ろうかな。


「へんてこなものがあるのだ!」

「それはオペラグラスだね。双眼鏡みたいなもので、観劇のときとかに使うんだよ」

「マリンが喜びそうなのだ!」

「マリンちゃんって観劇の趣味とかあったっけ?」

「ドラミの演奏会を近くで見ることができるのだ……!」

「それはべつに近くから見てもらえばいいだけじゃ……」

「ちなみにドラミも欲しいのだ」

「ドラミが?」


 劇場でもすぐに寝ちゃってたし、観劇の趣味はなさそうだけど……。


「これさえあれば、遠くにいる魔獣に気づけるのだ。そしたらジェイドに『あっちにいる!』って教えることができるのだ」


 僕のお手伝いがしたいみたい。

 それなら双眼鏡のほうが良さそうだけど、あれは子どもの手には重いだろうし……


「わかった。ドラミとマリンちゃんに買ってあげる」

「やったー! これで魔獣を見つけてやるのだ~」


 オペラグラスをふたつ買うと、ひとつをリュックに入れ、もうひとつを覗きこむ。


「なにが見える?」

「ドーナツなのだ! 美味しそうなのだ……」

「あとで食べよっか」

「食べるのだ~! いっぱい歩いてお腹を空かせて……」


 ドラミが急に黙りこむ。

 どうしたんだろ?


「今度はなにを見てるの?」

「あれってなんなのだ?」


 ドラミが指さした先には、立て看板があった。

 看板には、可愛い女の子の絵が描かれている。

 どうやら明日広場のステージで『可愛いコンテスト(子どもの部)』が開催されるらしい。

 コンテストの内容を説明すると、ドラミは興味を示した。


「出たいのだ! ……出ていいのだ?」

「もちろんだよ」


 これに優勝すればマリンちゃんに『すごいです!』って言ってもらえるもんね。

 ドラミに素敵な土産話を持たせるためにも協力してあげないと。

 さっそくコンテストの受付を済ませると、僕たちは買い物を続けるのだった。