受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第32話 ドラミソード再び 》

 翌朝。

 宿屋の食堂で朝食を済ませた僕たちは、買い物するため町へ出た。


「あのとろけるような舌触りを知らなかったなんて……ドラミは人生の半分を損していたのだ……」


 快晴の空の下、ドラミがうっとりとした顔でつぶやく。

 さっき食べた桃の味が忘れられないみたいだ。

 いつでも食べられるように、店主に種を譲ってほしいとお願いまでしていた。

 その種が、いまドラミの手のなかにある。


「お家に帰ったら育ててやるのだ。立派に美味しく育つのだ~」

「実るのが楽しみだね」

「収穫できたらパーティするのだ! ガーネットとマリンも招待するのだ~」

「その日が待ち遠しいよ」


 果実が実る頃にはオニキスさんも見つかってるといいな。

 楽しい桃パーティを思い浮かべてニマニマしていたドラミは、そういえば、と僕を見上げる。


「お土産はどこで買うのだ? ドラミ的には果物屋がオススメなのだ。ガーネットもぜったい喜んでくれるのだ!」

「桃は最終日に買うよ。なるべく新鮮な桃を持ち帰りたいからね」

「さんせーなのだ! 帰り道が楽しみなのだ~」


 つまみ食いする気満々だ。

 いっぱい買うし、食べてくれていいけどね。


「で、果物屋じゃないならどこに行くのだ?」

「とりあえず雑貨屋に行こうかな」

「商業都市の雑貨屋……珍しい小物がいっぱいありそうなのだっ! 見てるだけでも楽しめそうなのだ~」

「お婆ちゃんへの手土産に良さそうなものがあれば買っていいからね」


 ドラミのお婆ちゃんがこの町にいると決まったわけじゃないけど、早め早めに用意しといて損はない。


「よーし! お婆ちゃんが許してくれそうな手土産を見つけてみせるのだ!」


 ドラミはやる気満々だ。いまにも駆けだしてしまいそう。

 ドラミがはぐれないように手を繋ぎ、僕たちは雑貨店を探す。

 と、ふいにドラミが立ち止まった。

 視線の先には噴水広場があった。おじさんたちが噴水にコインを投げ入れ、両手を合わせているところだった。


「も、もったいないのだ……! いらないなら欲しいのだ……!」

「捨ててるわけじゃないよ」

「違うのだ?」

「うん。あれは願いの泉――お金を投げて、願いごとをするんだ」

「面白そうなのだ!」

「せっかくだし、やってみよっか?」

「さんせーなのだ! なにを願うか迷っちゃうのだ~」


 噴水へ向かい、ドラミにコインを渡す。

 そして「せーの」で投げ入れた。

 ――ガーネットさんのお父さんとお母さんに交際を認めてもらえますように!

 心のなかでお願いをして、待つことしばし。ドラミがぺこっと頭を下げ、そわそわする。

 すぐに願いが叶うんじゃないかとドキドキしてるみたいだ。


「なにをお願いしたの?」

「マリンと早く遊べますようにってお願いと、お菓子が食べたいですってお願いと、綺麗な小石が見つかりますようにってお願いと、オニキスが見つかりますようにってお願いと、ドラミソードと再会できますようにってお願いと、お婆ちゃんが穏便に済ませてくれますようにってお願いと、桃がいっぱい実りますようにってお願いと、夢が叶いますようにってお願いをしたのだ」

「いっぱいお願いしたんだね」

「早く叶ってほしいのだ~! ――むっ、なんだか甘い香りがするのだ! ややっ! あんなところでドーナツを売ってるのだ!」


 チラチラと僕を見るドラミ。

 夢を叶えてほしがってるみたい。


「買い物が終わったら食べよっか?」

「やったー! いきなりお願いが叶っちゃったのだ~!」


 声を弾ませるドラミを連れて、僕たちは先へ進む。

 と、大通りに雑貨店を発見。さっそく足を踏み入れる。

 食器に装飾品に文具に小瓶に置物に袋物に玩具など、小物が盛り沢山だ。

 デザインも可愛い系からカッコイイ系、落ち着いたものから派手なものまで多岐にわたる。


「すごいたくさんあるのだ……」

「この店だけで1日過ごせそうだね。――あっ、見てドラミ! これガーネットさんへの贈り物に良さそうじゃない?」

「可愛いジョウロなのだ! 毎日の水やりが楽しくなりそうなのだ!」

「だよね! これならガーネットさんも喜んでくれるよね!」


 花がモチーフのジョウロだ。

 ノズルの先っぽが花になってて、表面にハートの花びらが描かれている。

 これを使うたびに僕の愛を思い出してくれるはず。そう、つまりは花とともに愛を育むことができるのだ!


「一つ目の贈り物はこれにするとして……ドラミもジョウロ買いなよ」

「買っていいのだっ?」

「桃を育てるのにジョウロは欠かせないからね」

「やったー! ドラミはかたつむりのジョウロにするのだ~!」

「かたつむりが好きなの?」

「好きなのだっ! 昔ひとりで雨宿りしてたとき、話し相手になってくれたのだ! なかなかの聞き上手だったのだ……」


 かたつむりのジョウロをぎゅっとハグするドラミ。

 そのまま買い物を続行していると、ドラミがぴたっと立ち止まる。

 わなわなと震えながら手に取ったのは――


「こ、これは……! ドラミソードにそっくりなのだ!」

「それは縦笛だね。息を吹いて演奏する楽器だよ」

「カッコイイ楽器なのだ……きっとドラミソードの生まれ変わりなのだ……」


 チラチラと顔を上げ、買ってほしそうに見つめてくる。

 武器としては使えないけど……旅してると長時間歩くこともざらにあるし、縦笛があればいい暇潰しになりそうだ。


「いいよ。買ってあげる」

「やったー! いっぱい練習してみんなに聴かせてあげるのだ~」


 ドラミはジョウロと縦笛を胸に抱き、嬉しそうに僕のとなりをついてまわる。

 文具に、袋物に、玩具に、食器に、装飾品に、帽子に――


「マフラーか」


 これはいいかも。

 最近は涼しくなってきた。朝なんか肌寒く感じるほどだ。

 これからの時期、マフラーを贈れば喜んでもらえるはず! 上手くすればお揃いのマフラーを身につけることだってできちゃうわけだ!

 ガーネットさんとペアルックか~……。想像しただけで照れくさくなっちゃうな。

 でも、照れくささを乗り越えないと! じゃないと恋人として親密になれないぞ!


「――って、あれ? ドラミ?」


 気づけばドラミが消えていた。

 どこ行っちゃったんだろ?

 あたりを見まわしていると、ドラミが血相を変えて駆けてきた。


「す、すごいのを見つけちゃったのだ!」

「すごいの?」

「ドラミソードなのだ!」

「また?」


 いっぱいあるなぁ、ドラミソード。


「今回のドラミソードはどういうの?」

「これっ! これなのだ!」


 興奮気味に見せてきたのは、剣を模したキーホルダーだ。

 剣にはドラゴンが巻きつき、瞳に赤い石が埋めこまれている。


「今回のドラミソードは小さいね」

「パワーが凝縮されてるのだ……! しかもこれならポーチにつけられるからなくす心配はないのだ! これはお買い得なのだ……」


 チラチラと僕の顔をうかがいながらセールストークするドラミ。

 そんなに気に入ったなら買ってあげてもいいんだけど……


「まずはお婆ちゃんへの贈り物を探してみない?」

「こ、これがお婆ちゃんへの贈り物なのだ!」


 ドラミは目を泳がせながら続ける。


「ドラミの予想では、お婆ちゃんは武器を欲しがってるのだ!」

「だとしたら武器屋で買ったほうがいいんじゃ……」

「いきなり本格的な武器を使うと大怪我するかもなのだ! だから手のひらサイズのほうがいいのだ! でも気に入ってくれないかもしれないから念のため違う手土産も買うのだ!」

「その場合、ドラミソードはどうなるの?」

「もったいないからドラミがもらうのだ」


 ドラミソードを手に入れるため、知恵を巡らせたみたい。

 すでにジョウロと縦笛を購入予定だ。もうこれ以上は買ってもらえないと思ったのだろう。


「それは買ってあげるから、お婆ちゃんにはべつのを贈ろうよ」

「ええ!? い、いいのだ!?」

「そのかわり、良い子にするんだよ」

「良い子にするのだ! 服もちゃんとたたむのだ! 歯磨きのあとにジュースを欲しがったりしないのだ!」

「じゃあ買ってあげる」

「やったー! これで最強の仲間入りなのだ……!」


 ばったばったと魔獣を薙ぎ倒す自分を想像しているのか、いつにも増して凜々しい顔つきだ。


「でさ、いまマフラーを見てたんだけど、ドラミもこれにしない?」

「そうするのだ!」


 僕たちはマフラーを吟味する。

 僕が選んだのはグレーのシンプルなマフラー。自分用とガーネットさん用にふたつ買うことにした。

 ほんとはハート柄のマフラーがよかったけど……ちょっと照れくさいからね。

 ハート柄はもうちょっと仲良くなってからにしよう。


「ドラミはこれにするのだ!」


 ドラミがお婆ちゃん用に選んだのは、ハート柄のマフラーだ。

 お婆ちゃんっぽさはないけど、ドラミが一生懸命選んだんだからきっと喜んでくれるはず。

 会計を済ませると、僕たちは雑貨屋をあとにした。


「さて、休憩がてらドーナツにしよっか?」

「やったー! 食べるのだ~!」


 とてとてと駆けるドラミを追いかけ、広場へ向かう。

 するとドーナツの甘い香りが漂ってきた。

 さっそくよだれを垂らしていたドラミだけど――


「わっ!」


 と、僕の背中に隠れてしまう。


「どうしたの?」

「あ、あそこ……」


 背中から顔を覗かせ、ドラミが噴水のほうを見る。

 視線を追いかけると、お願いごとをしているひとがいた。

 気難しそうな顔のお婆ちゃんだった。