《 第27話 怖い夢 》
その夜。
ガーネットさんの手料理を味わった僕は、ティータイムを満喫していた。
「新しい茶葉、気に入ってくれたかしら?」
「はい! これで顔を洗いたいくらい美味しいです!」
「顔をヤケドしてしまうわ」
「……もぐもぐ。むぐっ……もぐもぐ」
「……ねえドラミ、無理して食べなくていいんだよ」
「お腹いっぱいなら残してもいいわ」
「もぐっ……ぜ、全部食べるのだ……!」
ドラミは力強く意気込んでるけど、スプーンはちっとも進んでない。
それどころか、スプーンから手を離してしまっている。ドラミは椅子に腰かけて、ぽっこりとしたお腹をさすっているのだ。
無理ないけど。なにせ大きな皿を持ちこんで、山盛りの料理が提供されたから。
最初は山盛りのご飯に目をキラキラさせていたドラミだけど……
「ぜ、全然減らないのだ……」
食べても食べてもごちそうさまができず、すっかり絶望してしまっている。
「食べるの手伝おうか?」
「……ジェイドはお腹空いてるのだ?」
「ガーネットさんの手料理は別腹だから、いくらだって食べられるよ」
「今日は別腹しか使ってないのね」
「だったら食べさせてあげるのだ!」
ドラミは僕の口にハンバーグとマッシュポテトを押しこんでいき、やっとごちそうさまができた。
「美味しいご飯をありがとうなのだ!」
「本当に美味しかったです! 僕たちのためにわざわざご馳走を作ってくれて本当にありがとうございます!」
「どういたしまして。毎日来てくれてもいいわ」
「嬉しいです! ……けど、しばらくガーネットさんの手料理はお預けです」
「なぜかしら?」
「そろそろオニキスさんを捜しに行こうと思いまして」
「そう。お父さんを捜しに行くのね……」
ガーネットさんは不安げだ。
12年前から行方不明の父親が無事に見つかるかどうかが心配なのだろう。
だったら不安を吹き飛ばさなきゃ!
「いつになるかはわかりませんけど、必ずオニキスさんを連れて帰ってみせます!」
「あなたのことは頼りにしているわ。だけど、危なくないかしら?」
危なく……って、
「僕の心配をしてくれてるんですか?」
「あなたの心配をしているわ。危険な旅になるかもしれないもの」
「そ、そうですか……」
嬉しくてニヤけを抑えきれないよ。
だって、僕は強いから。どんなクエストを受けても僕を心配するひとなんか、これまでひとりもいなかった。
だけど、ガーネットさんは違う。
僕を英雄ではなく、ひとりの人間として見てくれている――英雄としてではなく、ひとりの男として僕を好きになってくれたんだ。
そのことが僕はたまらなく嬉しかった。
「心配いりませんよ。僕は旅慣れてますからね!」
「旅慣れたドラミたちなら、怪我せず帰還できるのだ!」
「頼もしいわ」
ガーネットさんに褒められて、ドラミは照れちゃったみたい。
早くいいところを見せたいのか、僕の腕をぐいぐい引っ張って催促する。
「早く旅立ちたいのだ! 旅立ちはいつなのだ?」
「明日出発するよ」
「どこへ捜しに行くのかしら?」
「まずは隣国のリーンゴック王国に行ってみようと思います」
「ええ!? 国を出るのだ!?」
「王都のギルドに情報がないってことは、この国にはいないってことだからね。あ、でも心配はいらないよ。列車で行けるから移動は苦じゃないしさ」
「な、なるほどー。駅弁が楽しみなのだ……! うっ、ご飯のことを考えたらお腹が苦しくなってきたのだ……」
「後片づけは私がするから、お家に帰って休むといいわ」
「すみません、2日連続で……」
「構わないわ。旅が終わったら、また食べに来てほしいわ」
「はいっ! 必ず食べに来ます!」
ガーネットさんにお礼を告げ、ドラミを背負って帰宅する。
そのままベッドに運んで寝かしつけると、しばらくして寝息を立て始めた。
……さて。
お風呂に入ってさっぱりしたいところだけど……
ドラミになにかあったらマズいし、僕も寝ようかな。
そうと決めた僕はパジャマに着替えて眠りにつき――
「ぎゃああああああああああ!」
突然、ドラミが跳ね起きた。
「ど、どうしたのドラミ!?」
「どうもしてないのだ……」
「どうもしてないって……ものすごい悲鳴だったけど」
「ただのいびきなのだ」
「あんないびき、ありえないよ。怖い夢を見たんだね?」
「……ほんとは怖い夢を見たのだ」
「どんな夢を見たの? 僕に話すと気分が楽になるよ」
となりに座って背中を撫でると、ドラミは泣きそうな声で打ち明ける。
「……叩かれる夢なのだ」
「誰に?」
「知らないひとなのだ……これ、正夢かもしれないのだ……」
「そんな酷いことするひとなんかいないよ」
「で、でも……ドラミはホワイトドラゴンなのだ」
「平気だって。正体がバレても、この国にいる限りは安全……」
……ああ、そうか。
ホワイトドラゴンの討伐禁止令が出てるのはこの国だけ。
国を出ればそうじゃなくなる。
だからドラミは隣国と聞いてうろたえ、悪夢を見てしまったんだ。
「ごめんね、気づけなくて」
「気づけなくて当然なのだ。だってドラミ、常に凜々しい顔をしてるのだ……。不安がってるとは夢にも思わないのだ」
「そうだね。ドラミは凜々しいよ。そんなドラミをドラゴンだと見抜けるひとなんかいないよ」
「逆に怪しまれるかもなのだ。『こんなに凜々しい娘が人間なわけがない』って」
「そっかー……じゃあさ、凜々しさに可愛さを加えてみるのはどうかな? そしたら年頃の女の子に見えると思うよ」
「ちょっとやそっとの可愛さじゃ、ドラミの凜々しさは薄まらないのだ……」
「そうだね」
どうしよ。はっきり『ドラミってそこまで凜々しくないよ』って言ったら安心してくれるかな?
うーん。安心したとしても、傷つけちゃうのはよくないよね……。
「とりあえず今日のところは寝ない? で、明日どうするか考えてみよっか」
「明日は王都で過ごすのだ?」
「うん。ひとまず明後日出発ってことにしとくよ」
「だったら今日は安心して眠れるのだ!」
ドラミはベッドにもぐりこみ、スヤスヤと寝息を立て始めた。
その夜。
ガーネットさんの手料理を味わった僕は、ティータイムを満喫していた。
「新しい茶葉、気に入ってくれたかしら?」
「はい! これで顔を洗いたいくらい美味しいです!」
「顔をヤケドしてしまうわ」
「……もぐもぐ。むぐっ……もぐもぐ」
「……ねえドラミ、無理して食べなくていいんだよ」
「お腹いっぱいなら残してもいいわ」
「もぐっ……ぜ、全部食べるのだ……!」
ドラミは力強く意気込んでるけど、スプーンはちっとも進んでない。
それどころか、スプーンから手を離してしまっている。ドラミは椅子に腰かけて、ぽっこりとしたお腹をさすっているのだ。
無理ないけど。なにせ大きな皿を持ちこんで、山盛りの料理が提供されたから。
最初は山盛りのご飯に目をキラキラさせていたドラミだけど……
「ぜ、全然減らないのだ……」
食べても食べてもごちそうさまができず、すっかり絶望してしまっている。
「食べるの手伝おうか?」
「……ジェイドはお腹空いてるのだ?」
「ガーネットさんの手料理は別腹だから、いくらだって食べられるよ」
「今日は別腹しか使ってないのね」
「だったら食べさせてあげるのだ!」
ドラミは僕の口にハンバーグとマッシュポテトを押しこんでいき、やっとごちそうさまができた。
「美味しいご飯をありがとうなのだ!」
「本当に美味しかったです! 僕たちのためにわざわざご馳走を作ってくれて本当にありがとうございます!」
「どういたしまして。毎日来てくれてもいいわ」
「嬉しいです! ……けど、しばらくガーネットさんの手料理はお預けです」
「なぜかしら?」
「そろそろオニキスさんを捜しに行こうと思いまして」
「そう。お父さんを捜しに行くのね……」
ガーネットさんは不安げだ。
12年前から行方不明の父親が無事に見つかるかどうかが心配なのだろう。
だったら不安を吹き飛ばさなきゃ!
「いつになるかはわかりませんけど、必ずオニキスさんを連れて帰ってみせます!」
「あなたのことは頼りにしているわ。だけど、危なくないかしら?」
危なく……って、
「僕の心配をしてくれてるんですか?」
「あなたの心配をしているわ。危険な旅になるかもしれないもの」
「そ、そうですか……」
嬉しくてニヤけを抑えきれないよ。
だって、僕は強いから。どんなクエストを受けても僕を心配するひとなんか、これまでひとりもいなかった。
だけど、ガーネットさんは違う。
僕を英雄ではなく、ひとりの人間として見てくれている――英雄としてではなく、ひとりの男として僕を好きになってくれたんだ。
そのことが僕はたまらなく嬉しかった。
「心配いりませんよ。僕は旅慣れてますからね!」
「旅慣れたドラミたちなら、怪我せず帰還できるのだ!」
「頼もしいわ」
ガーネットさんに褒められて、ドラミは照れちゃったみたい。
早くいいところを見せたいのか、僕の腕をぐいぐい引っ張って催促する。
「早く旅立ちたいのだ! 旅立ちはいつなのだ?」
「明日出発するよ」
「どこへ捜しに行くのかしら?」
「まずは隣国のリーンゴック王国に行ってみようと思います」
「ええ!? 国を出るのだ!?」
「王都のギルドに情報がないってことは、この国にはいないってことだからね。あ、でも心配はいらないよ。列車で行けるから移動は苦じゃないしさ」
「な、なるほどー。駅弁が楽しみなのだ……! うっ、ご飯のことを考えたらお腹が苦しくなってきたのだ……」
「後片づけは私がするから、お家に帰って休むといいわ」
「すみません、2日連続で……」
「構わないわ。旅が終わったら、また食べに来てほしいわ」
「はいっ! 必ず食べに来ます!」
ガーネットさんにお礼を告げ、ドラミを背負って帰宅する。
そのままベッドに運んで寝かしつけると、しばらくして寝息を立て始めた。
……さて。
お風呂に入ってさっぱりしたいところだけど……
ドラミになにかあったらマズいし、僕も寝ようかな。
そうと決めた僕はパジャマに着替えて眠りにつき――
「ぎゃああああああああああ!」
突然、ドラミが跳ね起きた。
「ど、どうしたのドラミ!?」
「どうもしてないのだ……」
「どうもしてないって……ものすごい悲鳴だったけど」
「ただのいびきなのだ」
「あんないびき、ありえないよ。怖い夢を見たんだね?」
「……ほんとは怖い夢を見たのだ」
「どんな夢を見たの? 僕に話すと気分が楽になるよ」
となりに座って背中を撫でると、ドラミは泣きそうな声で打ち明ける。
「……叩かれる夢なのだ」
「誰に?」
「知らないひとなのだ……これ、正夢かもしれないのだ……」
「そんな酷いことするひとなんかいないよ」
「で、でも……ドラミはホワイトドラゴンなのだ」
「平気だって。正体がバレても、この国にいる限りは安全……」
……ああ、そうか。
ホワイトドラゴンの討伐禁止令が出てるのはこの国だけ。
国を出ればそうじゃなくなる。
だからドラミは隣国と聞いてうろたえ、悪夢を見てしまったんだ。
「ごめんね、気づけなくて」
「気づけなくて当然なのだ。だってドラミ、常に凜々しい顔をしてるのだ……。不安がってるとは夢にも思わないのだ」
「そうだね。ドラミは凜々しいよ。そんなドラミをドラゴンだと見抜けるひとなんかいないよ」
「逆に怪しまれるかもなのだ。『こんなに凜々しい娘が人間なわけがない』って」
「そっかー……じゃあさ、凜々しさに可愛さを加えてみるのはどうかな? そしたら年頃の女の子に見えると思うよ」
「ちょっとやそっとの可愛さじゃ、ドラミの凜々しさは薄まらないのだ……」
「そうだね」
どうしよ。はっきり『ドラミってそこまで凜々しくないよ』って言ったら安心してくれるかな?
うーん。安心したとしても、傷つけちゃうのはよくないよね……。
「とりあえず今日のところは寝ない? で、明日どうするか考えてみよっか」
「明日は王都で過ごすのだ?」
「うん。ひとまず明後日出発ってことにしとくよ」
「だったら今日は安心して眠れるのだ!」
ドラミはベッドにもぐりこみ、スヤスヤと寝息を立て始めた。
