受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第24話 10年越しの想い 》

 ドラミとマリンちゃんを保護したあと――。

 王都に帰りつき、ギルドの前を通り過ぎると、ふたりは気まずそうな顔をした。


「まだ気にしてるの?」

「気にするのだ……ドラミのせいでマリンを危険な目に遭わせてしまったのだ……」

「違うです。危ない目に遭ったのは、わたしが弱いからです……」

「マリンちゃんは弱くないよ。ウィングベアは三つ花相当の魔獣なんだから。むしろよく逃げようと判断できたね」

「だって、あんなの倒せるわけがないですから。逃げるなんて冒険者失格です……」

「そんなことないよ。危険を察知する力も冒険者には欠かせないし。マリンちゃんは立派な冒険者になれるよ」

「ほ、ほんとですっ?」

「もちろん。それにマリンちゃんだけじゃなく、ドラミも立派だったよ」

「ドラミが立派なのだ……?」

「うん。ライトマッシュの魔石とか干し肉とか、ちゃんと準備できて偉いよ」


 僕が褒めると、ドラミは嬉しそうな顔をする。

 ふたりを励ましながらも歩いていき、ようやく我が家に帰りつく。

 家に入ると、そわそわしていたガーネットさんが駆け寄ってきた。

 マリンちゃんの肩を掴み、手や足や頬を調べる。


「怪我はないかしら?」

「怪我はないです。それより黙って出ていってごめんなさいです!」

「ドラミが誘ったのだ! 怒るならドラミを怒ってほしいのだ!」

「だめです! 怒るならわたしを怒ってほしいです!」

「怒ってないわ。ふたりとも、ちゃんと反省しているもの。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」


 ガーネットさんはふたりの髪を撫で、心から安心したように言う。

 お父さんの二の舞になるんじゃないかって、ずっと心配してたんだろうな……。

 ガーネットさんを安心させることができて本当によかった。

 ふたりの髪から手を離すと、ガーネットさんが見つめてくる。


「あなたには助けられてばかりだわ」

「いえ、当然のことをしたまでです!」

「私にできるお礼なら、なんでもするわ。なにかしてほしいことはないかしら?」

「で、でしたら、僕と舞踏会に来てください! 今年のは終わっちゃいましたけど、来年もありますから!」

「あなたは本当にダンスが好きなのね」

「大好きです! もういますぐ踊りたいくらいですよ!」

「だったら、これから踊るのはどうかしら?」

「これから? もう今年の舞踏会は終わりましたけど……」

「ここで踊るのよ」

「えっ。ここで? いいんですか!?」

「だめな理由がないわ」

「や、やった! やったー! 踊れる踊れる踊れるぅぅぅう!」

「ジェイドはダンスが好きなのだなぁ」

「大好きだよ! ほんとダンスって最高だよね!」


 って、喜びの舞いを踊ってる場合じゃないよねっ!

 ガーネットさんの気が変わらないうちに踊らないと!


「ここは散らかってますし、あっちで躍りましょう!」


 僕はガーネットさんを空き部屋へ連れていく。

 部屋に入ると、じぃっと僕の瞳を見つめてきた。

 いよいよか。緊張するなぁ……。


「え、えと、じゃあ……手を繋いでも?」

「もちろんよ」


 ガーネットさんが差し出した手を、僕はそっと握った。

 うわあっ! 柔らかい!
 
 しっとりしてて、温かくて――ていうか指細っ!

 力をこめたら怪我させちゃいそうだな……。


「ほんとに躍っていいんですか? 腕を引っ張って怪我させちゃうかも……」

「だったら、引っ張れないようにすればいいわ」


 ガーネットさんが手を繋いだまま、僕に身を寄せてきた。

 ふわっと心地良い匂いが漂い――胸元に柔らかい感触が! 感触が!?

 こ、これってなに!? めちゃくちゃ柔らかいんですけど!?


「呼吸が荒いわ」

「す、すみません! ダンスが楽しみすぎて!」

「だったら、早く踊りましょう」

「で、ですね! では……」


 高鳴る鼓動をそのままに、僕はダンスを始める。

 練習してたのとは違い、身体をゆらゆらと揺らすだけ。

 だけど……
 想像してたのとは違うけど、想像以上に幸せだ。


「ジェイド、ニヤニヤしてるのだ……すごく楽しそうなのだ……」

「ダンスって、そんなに楽しいのです?」

「ドラミたちも踊ってみるのだ!」

「さんせーです!」


 ぎゅっとハグして、ふたりも踊る。

 それを横目に、僕はガーネットさんの温もりを感じ続ける。

 あぁ、幸せだな……。


「ごめんなさい」

「なにがですか?」

「いま足を踏んでしまったわ」

「そうなんですか。ダンスに夢中で気づきませんでした」

「集中しすぎだわ」

「幸せですから……」


 大好きなガーネットさんと、僕は夢中になって踊り続けた。

 すると――


 ぐぅ、と小さな音が鳴る。


 ……誰の音だろ?

 わからないけど、誰かがお腹を空かせているのは確かだ。


「……そろそろやめます?」


 名残惜しいけど、もう一生分の幸せを味わった。

 僕が言うと、ガーネットさんはそっと離れる。

 ……ガーネットさんの顔が、うっすらと赤らんでいた。

 てことはいまの音、ガーネットさんなのかな?

 だったらご飯にしないと!


「そろそろ食事にしましょうか?」

「やったー! お腹ぺこぺこだったのだ~!」

「わたしもです! お腹鳴っちゃったですよ!」


 えっ? いまの音、マリンちゃんなの?

 だったら……どうしてガーネットさんは頬を染めてるんだ?

 ……もしかして。


「あの……体調が悪いんですか?」

「どうしてそう思うのかしら」

「顔が赤いですから。熱があるならひとっ走りして特効薬を手に入れてきますよ!」

「熱はないわ。あなたとダンスできるように、ちゃんと体調管理をしてたもの」

「わざわざ体調管理まで……ありがとうございます。僕、今日のダンスめちゃくちゃ楽しかったです!」

「私も楽しかったわ。だけど……男の子とこうやって踊るのははじめてだったから、緊張して、あまり上手に踊れなかったわ」

「そんなことないです! ガーネットさん、すごく上手でした! ダンスパーティに行ってたらぜったい主役になってましたよ!」

「本当かしら?」

「本当ですって! そもそもダンスの腕前とか気にしませんし! ガーネットさんと踊れるだけで幸せなんですから!」

「私と?」

「はい! ガーネットさ……」


 ……あれ? 僕いまなんて言った? なんて言った!?

 ガーネットさんと踊るのが幸せって言わなかったか!?

 告白だと受け取られたらどうしよう。 

 友達になって日が浅いのに告白すれば、待っているのは失恋だ。

 ま、まあでも、踊るのが幸せって言っただけだもんね。告白とはちょっと違うか!



「ジェイドは本当にガーネットが好きなのだなぁ」



 うわあああ!? ドラミいぃいい!?

 ほのぼのとした表情で、なんて際どい発言をするんだ!


「ジェイドくん、お姉ちゃんが好きなんです!?」

「大好きなのだ!」

「ドラミ!?」

「大好きなガーネットのために花を摘んだり魚を釣ったりしたのだ!」

「ドラミ!?」

「ガーネットと夕日を見るために港町に別荘も買ったのだ!」

「ドラミ!?」

「ちなみにドラミもジェイドが好きなのだ!」

「三角関係です!? わたしはどっちを応援すればいいですか!?」


 マリンちゃん、興味津々じゃないか!

 こんな話題で盛り上がらないで……!


「応援ってなんのことなのだ?」

「ジェイドくんと恋人になれるように応援するってことです」

「ドラミはただジェイドにお世話になってるから好きなだけなのだ。恩返しがしたいだけなのだ。ジェイドもそうじゃないのだ?」

「ええと……僕は、その……」


 言葉に詰まってしまう。

 チラッと顔を上げると、ガーネットさんがじぃっと僕を見つめていた。


「私のことが、好きなのかしら?」

「ま、まあ、好きです、けど……」

「……その好きは、お付き合いしたいという意味なのかしら?」


 だ、だめだ! 否定できない!

 お付き合いしたいという意味じゃないです、とかガーネットさんに言えるわけないよ!

 だって、それじゃまるで僕がガーネットさんを振ったみたいじゃないか!


「……違うのかしら?」

「ち、違いますよ! あっ、いまの違うっていうのは違うを否定する意味での違うという意味でそのままの意味の違うとは違います!」

「つまり……どういう意味かしら?」


 難しそうな顔をするガーネットさん。

 そんな彼女に、僕は勇気を振り絞り――

 10年越しの想いをぶつける。





「つまり僕の恋人になってほしいって意味です!」





 しん、と部屋が静まりかえる。

 不安で心臓がバクバク鳴るなか、ガーネットさんが口を開いた。



「なるわ」

「で、ですよね! やっぱり無理ですよね! 僕たち友達になったばかりですもんね――いまなんて!?」

「なるわ。ジェイドくんの恋人に」

「ど、どどどうしてですか!? 友達になって日が浅いのに……!」

「だけど、あなたがどういう人間かはよく知っているわ。だって、10年前から毎日のように見てきたもの。ジェイドくんは優しくてまじめで努力家で、ものすごく元気だわ。ジェイドくんと一緒にいると、私まで明るい気持ちになってくるわ。だから、あなたとお付き合いするのよ」



 う、うおおおおお!
 うおおおおおおおおおおおおお!?


「や、やったあああああああああああああああああああ! ガーネットさんが恋人になってくれたああああああ!」

「喜びすぎじゃないかしら」

「めちゃくちゃ嬉しいですもん! 僕、本気でガーネットさんのことが好きなんですから! ほ、ほんとに付き合ってくれるんですか!?」

「付き合うわ」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ありがとうございます! ぜったい幸せにしてみせます!」


 ハイテンションではしゃぐ僕に、マリンちゃんとドラミが拍手を送る。


「おめでとうです!」

「ありがとうマリンちゃん!」

「おめでとなのだ!」

「ありがとうドラミ!」

「お祝いにお菓子パーティするですかっ?」

「お菓子ばかりだと身体を壊すわ」

「じゃあ食べに行きませんっ?」

「それでもいいし、私が料理をしてもいいわ」

「え!? ガーネットさんが料理!?」

「意外かしら?」

「い、いえ、意外とかではなく……料理してくれるんですか?」

「ジェイドくんさえよければ料理するわ」

「やったー! ガーネットさんの手料理食べたいです!」


 僕が飛び跳ねて喜ぶと、ガーネットさんは「そんなに喜ばれると作りがいがあるわ」とほほ笑む。

 それから夢見心地でガーネットさん宅を訪れて、ずっと憧れていた恋人の手料理を味わい尽くしたのだった。

 世界一美味しかったのは言うまでもない。