受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第21話 デートのような時間 》

 初クエストを終えたあと――。


「カッコイイのだ!」

「似合ってるです!」


 ダンス衣装に着替えて食堂へ行くと、ふたりが褒めてくれた。

 ぺろぺろキャンディーを舐め終えたふたりは、テーブルにお菓子を広げている。

 クッキーにパイにフルーツタルトにゼリーに甘味の強い豆にジュース等々。

 いつもなら『どれかひとつにしたら?』と言いたくなるけど、今日は特別だ。

 初クエスト達成の祝勝会でもあり、ふたりが過ごす最後の夜でもあるのだから。


「ジェイドはいつパーティに行くのだ?」

「ガーネットさんが仕事を終えてからだから、もうちょっと時間あるかな」


 ギルドが閉まるのは日が暮れてから。ガーネットさんが来るのはそのあとだ。

 ガーネットさん、どんな格好で来るんだろ。見るのが楽しみだなぁ……。

 その瞬間を待ち遠しく思っていると、ノック音がした。


「お姉ちゃんです?」

「にしては早すぎるけど……」


 ドアを開けると、そこには美女が佇んでいた。

 真っ白なパーティドレス姿で、頭に白い花の髪飾りをつけている。

 ガーネットさんだ。


「わあっ! お姉ちゃん可愛いです!」

「すっごい綺麗なのだ~!」


 ほんとだよ! ほんとに可愛すぎるよ! まるでウエディングドレスじゃないか!

 僕、こんな可愛いひとと踊れるの!? これ夢じゃないよね!?

 い、いや、いまは夢かどうかなんてどうでもいい!

 目の前におめかししたガーネットさんがいるんだ。僕も褒めないと!

 そう決意するのと同時に、ガーネットさんは胸に手を添え、じっと僕を見つめる。


「ジェイドくんは……どう思うかしら?」


 このタイミングで『ジェイドくん』って呼ばれちゃったよ!

 そう呼んでるのは知ってたけど呼ばれるのははじめてだ!


「す、すごく素敵です!」

「よかったわ」


 薄くほほ笑まれ、僕の心臓はどきどきだ。

 ただでさえ可愛いのに、笑うともっと可愛くなるんだからすごい……。


「あなたも似合ってるわ」

「ど、どうもです! そ、それじゃあ、えっと……もう行きます? ちょっと早いので、どこかで時間を潰さなきゃいけませんけど……」

「噴水広場に行きたいわ。私、あそこが好きだもの」

「わかりました! 噴水広場へご案内します!」

「いってらっしゃいなのだ~!」

「ごゆっくりですー!」


 ふたりに見送られ、僕たちは家をあとにした。

 外に出ると、夕焼け空が広がっていた。

 ……あれ? 夕日?


「今日って、ギルドは早く閉まったんですか?」

「まだ開いてるわ。あなたを待たせないように、早めに切り上げたのよ」

「そうだったんですね。わざわざすみません」

「気にしなくていいわ。私も楽しみにしていたもの」

「そ、そうなんですか? ダンスが好きとか……?」

「違うわ。楽しそうなあなたを見ていると、私も楽しみになってきたのよ。踊りは下手だから、期待しないでほしいわ」

「僕も下手ですからご心配なく! それに踊るのが上手じゃなくても楽しませてみせますから! 来てよかったって思ってもらえるように頑張りますから!」


 だから来年も、再来年も、僕とダンスをしてください! ……なんて言うのは、ちょっと気が早いかな?

 とにかく今日だ! 今日を全力で乗り切ろう!

 そしてガーネットさんを楽しませることができたら、来年も踊ってくださいって誘うんだ!


「着きました! 噴水広場です!」

「あそこが特等席よ」

「特等席とかあるんですか?」

「あそこのベンチから見える噴水が一番綺麗だわ。いまなら夕日が反射して、もっと綺麗に見えるわ」

「さっそく座りましょう!」


 僕はガーネットさんと隣りあってベンチに座る。

 噴水は綺麗だけど、ガーネットさんのほうが綺麗だ。できることならガーネットさんの横顔を見続けたいな……。

 そんなことをすれば不思議がられるため、僕は誘惑を振り払って噴水を眺める。

 しばらくそうしていると、ガーネットさんがぽつりと言った。


「今日はマリンがお世話になったわ」

「そんな、お世話だなんて。僕は見てただけですよ」

「それでも、あなたがいてくれたから今日は安心して過ごせたわ」


 それって、マリンちゃんがひとりでクエストを受けるのは心配ってことだよね?

 だとすると、やっぱり……


「マリンちゃんが冒険者になるの、反対ですか?」


 ガーネットさんは、小さくうなずいた。

 そして、暗い顔をして……


「心配だわ。お父さんみたいになるかもしれないもの……」

「ガーネットさんのお父さん、冒険者だったんですか?」

「冒険が大好きで、滅多に帰ってこないひとだったわ。最後にお父さんを見たのは、12年も前よ」

「12年……」


 てことは、おばさんがマリンちゃんを妊娠してるときから帰ってきてないのか。

 そんなに長いこと帰らないんじゃ不安にもなるよね……。

 冒険が楽しすぎて帰ってこないだけならいいけど、もしかすると冒険の途中で命を落としたのかもしれないんだから……。


「お父さん、早く帰ってくるといいですね」

「もう一度会いたいわ。そのためにギルド職員になったんだもの」

「そっか。ギルド職員になれば冒険者の情報も集まりますもんね」

「ええ。だけど、まだ情報はないわ」

「そうですか……。ちなみに、名前はなんですか?」

「オニキスよ」

「……オニキス? あの……そのひとって、右の頬に傷がありません?」

「あるわ。お母さんを魔獣から助けたときにできた傷よ。……どうして知っているのかしら?」

「やっぱり! 僕、会いましたよ!」


 ガーネットさんは、驚いたように目を丸くする。


「いつ会ったのかしら?」

「12年前に僕の故郷に来たんです。僕、オニキスさんの話を聞いて冒険者になろうと決めたんですよ!」


 僕にとって、オニキスさんは恩人だ。

 オニキスさんがいなければ、僕は冒険者にならなかった。

 オニキスさんがいてくれたから、僕はガーネットさんと出会えた。

 一度会ってお礼を言いたいと思っていたのだ。おかげで冒険者になれましたよ、と。

 そのうえガーネットさんが会いたがってるんだから、もう見つけるしかない!


「きっと違う国にいるんですよ!」

「違う国に?」

「世界は広いですからね! ここは大陸の端っこですし、世界中を旅してまわってるなら12年音沙汰なしでもおかしくないですよ!」

「いつか帰ってくるのかしら?」

「帰ってきます! そのために僕も協力しますから! 情報を集めてみますし、なんでしたら他国にも行きますよ!」

「ジェイドくんに悪いわ」

「悪くないです! 僕もオニキスさんに会いたいですし! それにガーネットさん、ダンスの誘いを受けてくれたじゃないですか。その恩返しだと思ってください!」

「……ほんとうに手伝ってくれるのかしら?」

「もちろんです!」


 力強くうなずいてみせると――

 ガーネットさんは、嬉しげにほほ笑んでくれた。


「お礼の印に、今日は頑張って踊るわ」

「僕も頑張ります! 楽しい思い出を作りましょう!」

「ええ。ジェイドくんと思い出を作るわ。……そろそろかしら?」

「ですね。そろそろ城に行きますか!」


 ガーネットさんはうなずき、腰を浮かす。

 するとスカートが、ベンチに引っかかった。

 いや、引っかかったんじゃない。ベンチがべたついていたのだ。


「汚れてしまったかしら?」

「……ちょっとだけ黒ずんでますね」


 僕がそっちに座ればよかった。

 黒ズボンだと汚れは目立たないが、ガーネットさんのは真っ白なスカートなのだ。汚れがはっきりとわかる。


「すみません。汚れに気づけませんでした……」

「ジェイドくんのせいじゃないわ。だけど、この格好で行って国王様に失礼じゃないかしら?」

「国王様はそんな心の狭いひとじゃないですけど……よかったら着替えます? 僕の家、ドレスがいっぱいありますから」

「ドレスが?」

「ドラミが成長したとき用に買っておいたんですっ!」

「ドラミちゃんに悪いわ」

「気にせず使ってください!」


 ガーネットさんを説得し、僕たちは家へ引き返した。

 ただいまー、と家に入る。


 ……家のなかは、静まりかえっていた。


 さっきまでパーティしてたのに。もう寝ちゃったのかな?

 そう思って寝室を覗いてみたが、ドラミたちの姿はない。

 なんだか嫌な予感がするぞ……。

 念のためガーネットさんの家を見てみたが、やっぱりドラミとマリンちゃんの姿はなかった。

 まさか――


「ギルドに行ったのかしら?」


 ガーネットさんも同じ不安を抱いたようだ。

 パーティが始まるまでまだ時間はある。僕たちはギルドへ急いだ。

 ギルドはちょうど閉まるところだった。

 ドアにカギをかけていた職員に、僕は声をかける。


「ここに小さな女の子が来ませんでした? 白髪と青髪の女の子なんですけど……」

「あらジェイドさん。ええ、そのふたりなら来ましたよ。スライムを討伐するんだとはしゃいでました」


 やっぱり来たのか……。

 楽しそうに祝勝会をしてたのに、どうしてクエストを受けちゃったんだろ。

 いや、いまは理由とかどうでもいい。


「連れ戻してきますから、ガーネットさんは家で待っててください」

「……パーティはいいのかしら?」

「誘っておいてこんなこと言うのは失礼ですけど、パーティよりふたりのほうが大事です」


 ガーネットさんは、怒るどころか微笑した。

 そして、僕に信頼の眼差しを向けてくる。


「ふたりのこと、お願いするわ」

「はい! 任せてください!」


 ガーネットさんに見送られ、僕は王都を飛び出したのだった。