受付嬢に告白したくてギルドに通いつめたら英雄になってた

《 第17話 スカート姿 》

 翌日。

 ドアをノックする音に目覚めた僕は、寝ぼけ眼を擦りながら外へ出て――

 訪問者の顔を見た瞬間、目が冴えた。


「お、おはようございます!」


 私服姿のガーネットさんが佇んでいたのだ!

 どうして我が家に? 今日も仕事のはずじゃ……。

 ていうか今日はスカートなんだ! すっごい可愛い……。

 スカート姿は激レアだ。しっかりと目に焼きつけたいところだけど……スカートをじろじろ見るのはよくないよね。

 あぁっ、でも見たい! 

 だけど見ちゃだめだ! 


「目が迷子になってるわ」

「す、すみません。朝日が眩しくて。ていうか私服なんですね!」

「いつも職場で着替えてるわ」

「そ、そうなんですね! てことはこれから仕事ですか?」

「仕事よ。その前にあなたに話したいことがあったの」

「何年でも付き合います!」

「数分で済むわ。いいかしら?」

「望むところです!」

「元気すぎるわ」

「元気だけが取り柄ですから!」


 数分だろうとガーネットさんとおしゃべりできるのは嬉しいからね。

 寝起き早々にこんな体験ができるなんて、僕って幸せ者だなぁ。


「それで話ってなんですか?」

「今日はギルドに来るのかしら?」

「そのつもりですよ」

「わかったわ。起こして悪かったわね」


 ちょ、ちょっと待って! これで話終わりなの!?
 
 一言二言でも幸せだけど、もうちょっとおしゃべりしたいよ!


「あのっ! なにか頼みがあるなら聞きますけど……」


 きっと僕に頼みがあって我が家に来たんだ。

 だからこそガーネットさんはギルドに来るかどうかを聞いた。

 じゃなかったら、わざわざ確認に来ないはずだ。

 だって僕は毎日のようにギルドを訪れてるんだから。


「時間があればマリンを見ててもらおうと思ってたわ」

「マリンちゃんを……僕にですか?」

「妹をひとりにさせるのは心配だもの」

「だから僕に面倒を見てもらおうと?」

「マリンはあなたとドラミちゃんに懐いているもの。あなたになら安心して預けられるわ」


 ほんとに!?

 僕のこと、そんなに信用してくれてるの!?


「お引き受けします!」

「無理はしなくていいわ」

「無理とかしてないです! 今日はクエスト達成の報告だけするつもりでしたから!」


 ほんとは新たなクエストを受けるつもりだったけどね。

 これはガーネットさんともっと仲良くなる絶好のチャンスだ! みすみす逃す手はない。

 なによりマリンちゃんをひとりきりにさせちゃったら、ガーネットさんが安心して働けないんだ。

 しっかりマリンちゃんの面倒を見て、ガーネットさんを安心させないと!


「助かるわ。こんなお願いができるの、あなたとドラミちゃんだけだもの」

「僕とドラミだけ……」


 僕のこと、そんなに信頼してくれてるんだ。

 苦節10年、ガーネットさんとここまでの仲になれるなんて夢みたい。 


「マリンちゃんは家ですか?」

「まだ寝てるわ。これから起こして教えてくるわ」

「わかりました。ドラミが起きたら家に迎えに行きますね」

「お願いするわ。……ところで、スカート変かしら?」

「えっ!? ど、どうしてです?」

「チラチラ見てるから聞いただけよ」

「チラチラ見てました!?」


 見てたわ、とうなずくガーネットさん。

 無意識に見ちゃってたみたい。


「全然変じゃないですよ! いつものズボンもいいですけどスカートも似合いますね!」

「スカートは落ち着かないわ」

「なのにどうしてスカートを?」

「マリンがプレゼントしてくれたのよ」

「ガーネットさんのことが大好きなんですね」

「私も好きだわ。たったひとりの妹だもの。幸せになってほしいわ」


 言外に『冒険者にはなってほしくない』という思いがこめられている気がした。

 きっと本当にそう思っているはずだ。

 冒険者は常に危険と隣り合わせの職業なのだから。

 だけど……ガーネットさんのためとはいえ、マリンちゃんに冒険者を諦めさせることは僕にはできない。

 マリンちゃんの人生なんだ、決定権はマリンちゃんにしかない。

 それでも僕にできることはあるはずだ。

 マリンちゃんが安心して冒険者として過ごせるように、力になってあげないと!


 ガーネットさんを見送り、僕は寝室へと向かう。

 ドラミを起こしてパンを食べつつ、今日の予定を話して聞かせる。


「今日は王都をぶらつくよ」

「ギルドに行かないのだ?」

「クエスト達成の報告だけするよ。今日はマリンちゃんの面倒を見ることになったんだ」

「ドラミも面倒を見てやるのだ!」

「マリンちゃんもきっと喜ぶよ。歳も近いし、ドラミのこと尊敬してたからね」


 僕の言葉にテンションを上げ、ドラミは一気にパンを頬張るとミルクで流しこむ。

 それから身支度を整えると、ガーネットさん宅へ向かう。


「いらっしゃいです!」


 家を訪れると、マリンちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

 僕たちを家に招き入れ、うきうきと語りだす。


「ジェイドくんとドラミちゃん、お姉ちゃんと本当に仲良いんですね!」

「ガーネットさんがそう言ってたの?」

「お姉ちゃんが話してたです! 花や魚をくれたり、花を元気にしたり、蜘蛛を追い払ったり、ベッドをくれたりしたって! ふたりの話をするときのお姉ちゃん、楽しそうだったです!」


 僕はニヤけ顔を抑えるのに必死だった。

 ガーネットさんが楽しそうに僕の話をする姿、ぜひ一度見てみたいものだ。


「あっ。言い忘れてたです。今日は1日お世話になるです!」

「うむ。ドラミとジェイドが王都を案内してやるから楽しみにしてるといいのだ!」

「すっごく楽しみです! 早くお出かけしたいです!」

「さっそく行こうか」


 異論はなく、僕たちはガーネットさん宅をあとにした。

 ひとまずギルドに寄り、18番窓口でクエスト達成の報告をする。

 そして外へ出ると、ドラミが子どもたちに囲まれていた。

 いつものように冒険譚を語り聞かせてるみたい。


「気配はあれど姿は見えず、けれど暗闇から確かに感じられる視線……そう、今回の魔獣は透明になれたのだ!」

「透明に!? ぜったい倒せないじゃん!」

「ドラミはジェイドと相談したのだ! そして落とし穴を掘ることにしたのだ!」

「落とし穴を!? 隙だらけじゃん!」

「襲ってくれば倒すだけ――つまりあえての隙なのだ!」

「ドラミちゃん賢い……!」

「だけど魔獣はドラミとジェイドを警戒して襲ってこなかったのだ! ついに朝日が昇り、ドラミたちはその場をあとにしたのだ! 安心した魔獣はのこのこ出てきて――どすん!」

「落っこちたの!?」

「落っこちたのだ! そして隙だらけの魔獣に――どかん! ジェイドの拳が炸裂! ドラミは散りゆく魔獣を堂々たる姿で見据えていたのだ……」


 拍手喝采!

 子どもたちに称賛されて、ドラミはとっても嬉しそう。


「ドラミちゃんってすごいです! 花紋がないのに魔獣を前にして堂々としてるなんて……!」

「ドラミは魔獣など怖くないのだ! ドラミが怖れているのはひとつしかないのだ!」

「なんです?」

「それは静寂……からのパキッとかミシッとかいう音なのだ……」

「怖いです……」

「だけどドラミは恐怖をはねのけ、放浪を続けたのだ」

「ひとりで旅するとかすごいです……!」

「マリンもひとり旅をしてるのだ。だからそのうちドラミみたいにたくましくなれるのだ!」

「なってみせるです! ドラミちゃんみたいにたくましく、ジェイドくんみたいに強い冒険者に……!」


 マリンちゃんに尊敬され、ドラミは満足げに笑う。

 さて。
 切りのいいところまで語り終えたっぽいし、もういいよね?


「冒険譚は終わった?」

「うむ。今日のところは戦士の休息。次の冒険に備えて英気を養うのだ!」


 子どもたちに手を振られ、僕たちはギルド前をあとにしたのだった。