《 第13話 薬師の孫娘 》
「い、いますぐ逃げたほうがいいのだ!」
店に入った僕に、ドラミが泣きそうな顔で知らせてくる。
店内には大小様々な瓶があった。
中身は脳みそに目玉に死んだ芋虫に小動物の干物など、グロテスクなものばかり。
「ここにいるとバラバラに解体されてしまうのだ!」
「平気だって。これ全部、薬の素材なんだから」
「こ、こんなものが薬の素材になるのだ?」
「魔獣のなかには薬の素材になるものもいて、珍しいものは高値で取り引きされるんだよ」
「……もしかしてドラミも薬の素材リストに入ってるのだ?」
「まあ……心配いらないよ。ドラミは国で保護する決まりだもん」
「安心したのだ……」
と、ドラミが安堵の息を吐いた、そのとき。
「どなたですかぁ~?」
店の奥から、若い女性が顔を出す。
ほんわかとした声に相応しい、おっとりとした外見の女性だ。
手にはノコギリ包丁が握られ、エプロンは血で赤黒く染まっていた。
「ぎゃああああああああああああああああ!?」
ドラミが腰を抜かしちゃった。
せっかく励ましたのに……。
「あら~。お嬢ちゃん、どこから迷いこんだのかなぁ~?」
「こっ、こここッ、来ないでほしいのだ! あぶっ、危ないのだ!」
「あー、ごめんねぇ。お姉ちゃん、いま魔獣の解体をしてたんだよ~。見てくぅ?」
ドラミは力強く首を振り、よたよたと四つん這いのまま僕のうしろに隠れてしまう。
ドラミを震え上がらせた彼女は、僕をチラッと見て目を丸くした。
「ジェイドさんじゃないですかぁ。おひさしぶりです~。私のこと、覚えてますかぁ?」
「スゥリンさんでしたよね。クーさんのお孫さんの」
「わぁ~、覚えててくれたんですねぇ!」
「クーさんに調合のことで説教されてる姿が印象的でしたので」
「お婆ちゃん、厳しいひとでしたからぁ。いまだに怒鳴り声が耳に残ってるんですよぉ」
「今日はお姿が見えませんね。クーさんに用があって来たんですけど……」
「お婆ちゃんなら隠居しちゃいましたよぉ~」
「えっ、隠居しちゃったんですか? ではいまどこに……」
「田舎に帰っちゃいましたぁ~」
田舎帰りがブームなのか?
「困ったな。クーさんに薬の調合を頼みたいのに……」
「心配いりませんよ~。私、たいていの薬は調合できますからぁ」
予定とは違うけど、スゥリンさんはクーさんの孫娘で、弟子でもある。
一流の薬師のもとで日々修行を積んできた彼女なら、特効薬を作れるはず!
「お願いします! どうか彼女を苦しみから解放してやってください!」
「どーんと任せてくださーい!」
大きな胸をドンと叩き、スゥリンさんはドラミをまじまじと見る。
包丁を手にした血まみれの女性に観察され、ドラミはびくびくと震えている。
「麻痺の症状ですかねぇ?」
「いえ、震えてるのは、ただ怖がってるだけかと。というか、彼女の薬が必要なわけじゃないですから。知り合いが体調を崩したので薬をお願いできればと思いまして」
「どういった症状ですかぁ?」
「咳が、出るんです……」
「咳、ですかぁ?」
「ええ。あと、のどを押さえて、苦しそうに眉を……眉をひそめて……」
声が詰まる。
ガーネットさんの咳きこむ姿を思い出すと、胸が苦しくなってくる。
「でしたら、そちらの棚の咳止めをどうぞ~」
「特効薬ですか!?」
「市販のお薬ですよぉ~」
「市販のじゃだめなんです! ただの咳じゃないんです!」
「吐血してた、とかですかぁ?」
「そういうのでもなくて……けほ、けほ、って咳きこんでたんです!」
「……それだけですかぁ?」
「見たところ、それだけです」
「でしたら、薬の必要はありませんねぇ~」
「そ、そんな! 手の施しようがないんですか!?」
「ある意味、私が出る幕もない感じがしますけどぉ~」
「そこをなんとかお願いします! どうか苦しみから解放してやってください!」
「でしたら、やるだけやってみますねぇ」
「ありがとうございます!」
「いえいえ~。それで、咳以外に症状はありましたかぁ?」
「どことなく元気がないようにも見えました」
「咳が止まって、元気が出るお薬ですね~。ではでは、さっそく調合しちゃいますね~」
す、すごい。さすが一流の薬師のお孫さんだ。
これから特効薬を作ろうというのに、まるでプレッシャーを感じていない様子だ。
「僕にできることがあれば、なんでも言ってください!」
「ドラミもお手伝いするのだ!」
ガーネットさんのためになにかしたかったのだろう。
震えが収まったのか、ドラミも立ち上がって言う。
「ありがと~。じゃー、ドラミちゃん、そこの大瓶を取ってくれるかなぁ?」
「どれなのだ?」
「ドラミちゃんのうしろにある、目玉が入った大瓶だよ~」
「ひぐっ!? こ、これを材料にするのだ……?」
「とろっとしてて飲みやすいよぉ。それと、となりの小瓶もついでに取ってくれないかなぁ?」
「赤い液体……トマトジュースなのだ?」
「ドラゴンの血だよぉ~」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!?」
「ど、どうしたのかなぁ?」
「すみません、ドラミは血が苦手でして」
「怖いのだ! このお店、さっきから怖すぎなのだ!」
ドラミはいまにも泣きだしそう。
叫び続けると作業の邪魔になりかねないし、ドラミと外で待っていようかな。
スゥリンさんに目玉と血の瓶を渡して、僕たちは外へ出る。
「できましたよぉ~」
日が暮れて、通りが街灯に照らされる頃、スゥリンさんが小瓶を手に出てきた。
特効薬だ。
やった! これさえあれば、ガーネットさんを救えるぞ!
「ご要望通り、咳が止まって元気いっぱいになるお薬です~」
「ありがとうございます! お代はいくらですかっ?」
「30000ゴルです~」
「30000ゴル!?」
「市販の薬だと、せいぜい2000ゴルですけどねー。希少な素材を使ったから、高くなっちゃいました~」
「全然高くないです!」
支払いを済ませると、スゥリンさんにお礼を告げ、僕とドラミはその場をあとにした。
街灯に照らされた道を進み、家へと向かう。
「ガーネットの家に届けるのだ?」
「すぐに飲んでほしいからね。家にいなくても、帰ってくるまで外で待つよ」
「外で? こないだは不審者だと思われるかもって心配してたのだ」
「それとこれとは話がべつだよ」
優先すべきはガーネットさんの治療だ。
僕がどう思われようと知ったこっちゃない。
家につき、二度ノックすると、ガーネットさんが出てきた。
よかった、生きてた……。
「これ、受け取ってください!」
「なにかしら?」
「咳と疲労に効く特効薬です!」
「なぜこれを私に?」
「ガーネットさん、受付のとき調子悪そうにしてたので! さあ、手遅れになる前に飲んでください!」
「ぐいっと飲むのだ!」
「必要ないわ。もう治ったもの」
「もう治ったって……特効薬を持ってたんですか?」
「違うわ。自然に治ったのよ。のどに魚の小骨が引っかかってただけだもの」
そ、そうだったのか。
てっきり大病を患ったのかと……。
「心配かけていたとは思わなかったわ」
「心配しますよ! だってガーネットさんは僕にとって大事な……」
「大事な、なにかしら?」
「だっ、大事な…………大事な受付さんですから!」
危ない危ない。
勢いで告白するところだったよ。
薬を渡して告白するとか恩着せがましいもんね。
告白はちゃんとしたシチュエーションで、もっと仲良くなってからだ。
……その日がいつ来るかはわかんないけど。
「受付は大勢いるわ」
「ガーネットさんは特別な……馴染みの受付さんですから! たとえるなら、ガーネットさんが行きつけの店のおじいさんに花束を渡したのと同じ理由です!」
「納得したわ。ところで、その薬はいただいてもいいのかしら?」
「や、やっぱり体調が悪いんですか!?」
「花の調子が悪いのよ」
花?
……ああ、ガーネットさん、花を育ててるんだっけ。
この薬が花に効くかはわからないけど、試してみる価値はある。
「どうぞ使ってください!」
「さっそく使ってみるわ。ついでに見ていくかしら?」
「ええ!? いいんですか!?」
「驚きすぎだわ」
そりゃ驚くよ!
大好きな女の子の家に招かれたんだから!
で、でも平静を装わないと。
ニヤニヤしてたら不審がられちゃうぞ。
「お、お邪魔します……」
「お邪魔するのだ~!」
ガーネットさんの家に上がる。
寝室は2階にあるみたい。綺麗に磨かれた床に、木製の食卓に、手芸用らしき作業棚に、暖炉など、1階は生活スペースになっていた。
すごい! ガーネットさんの家だ!
へえ、いつもあの食卓で食事してるのか。
いつかこの部屋で一緒に食事ができたら幸せだな……。
「しおれてるのだ……」
ドラミが言った。
窓際に植木鉢が並べられ、そのうちのひとつ――白い花がしおれていた。
「早く治してやるのだ!」
「だね。薬が効くといいんだけど……」
僕たちが見守るなか、ガーネットさんが小瓶を鉢土に挿した。
特効薬が土に染みこんでいき――
しおれていた花が、シャキッとした。
「やったー! 復活した!」
「さすが特効薬なのだ!」
「ものすごい効き目だわ」
バンザイする僕たちの横で、ガーネットさんが嬉しげに表情をほころばせている。
ありがとうスゥリンさん!
おかげでガーネットさんの喜ぶ顔が見られたよ!
「ふたりのおかげで助かったわ」
「どういたしまして!」
「力になれてなによりなのだ! ……叫んだらお腹が空いたのだ」
「これから食事へ行くわ」
「行きつけの店、ほかにもあるんですか?」
「行きつけの店を開拓するために、いろいろと巡っているところよ。一緒に来るかしら?」
「行きます! いいんですか!?」
「だめな理由がないわ」
やった! やったよ! ガーネットさんが僕を食事に誘ってくれた!
「どうしてにやけているのかしら?」
「すっごくお腹が空いてましたからっ!」
大好きなガーネットさんと食事できることになり、僕は店についても、食事を終える頃になってもニヤニヤし続けたのだった。
「い、いますぐ逃げたほうがいいのだ!」
店に入った僕に、ドラミが泣きそうな顔で知らせてくる。
店内には大小様々な瓶があった。
中身は脳みそに目玉に死んだ芋虫に小動物の干物など、グロテスクなものばかり。
「ここにいるとバラバラに解体されてしまうのだ!」
「平気だって。これ全部、薬の素材なんだから」
「こ、こんなものが薬の素材になるのだ?」
「魔獣のなかには薬の素材になるものもいて、珍しいものは高値で取り引きされるんだよ」
「……もしかしてドラミも薬の素材リストに入ってるのだ?」
「まあ……心配いらないよ。ドラミは国で保護する決まりだもん」
「安心したのだ……」
と、ドラミが安堵の息を吐いた、そのとき。
「どなたですかぁ~?」
店の奥から、若い女性が顔を出す。
ほんわかとした声に相応しい、おっとりとした外見の女性だ。
手にはノコギリ包丁が握られ、エプロンは血で赤黒く染まっていた。
「ぎゃああああああああああああああああ!?」
ドラミが腰を抜かしちゃった。
せっかく励ましたのに……。
「あら~。お嬢ちゃん、どこから迷いこんだのかなぁ~?」
「こっ、こここッ、来ないでほしいのだ! あぶっ、危ないのだ!」
「あー、ごめんねぇ。お姉ちゃん、いま魔獣の解体をしてたんだよ~。見てくぅ?」
ドラミは力強く首を振り、よたよたと四つん這いのまま僕のうしろに隠れてしまう。
ドラミを震え上がらせた彼女は、僕をチラッと見て目を丸くした。
「ジェイドさんじゃないですかぁ。おひさしぶりです~。私のこと、覚えてますかぁ?」
「スゥリンさんでしたよね。クーさんのお孫さんの」
「わぁ~、覚えててくれたんですねぇ!」
「クーさんに調合のことで説教されてる姿が印象的でしたので」
「お婆ちゃん、厳しいひとでしたからぁ。いまだに怒鳴り声が耳に残ってるんですよぉ」
「今日はお姿が見えませんね。クーさんに用があって来たんですけど……」
「お婆ちゃんなら隠居しちゃいましたよぉ~」
「えっ、隠居しちゃったんですか? ではいまどこに……」
「田舎に帰っちゃいましたぁ~」
田舎帰りがブームなのか?
「困ったな。クーさんに薬の調合を頼みたいのに……」
「心配いりませんよ~。私、たいていの薬は調合できますからぁ」
予定とは違うけど、スゥリンさんはクーさんの孫娘で、弟子でもある。
一流の薬師のもとで日々修行を積んできた彼女なら、特効薬を作れるはず!
「お願いします! どうか彼女を苦しみから解放してやってください!」
「どーんと任せてくださーい!」
大きな胸をドンと叩き、スゥリンさんはドラミをまじまじと見る。
包丁を手にした血まみれの女性に観察され、ドラミはびくびくと震えている。
「麻痺の症状ですかねぇ?」
「いえ、震えてるのは、ただ怖がってるだけかと。というか、彼女の薬が必要なわけじゃないですから。知り合いが体調を崩したので薬をお願いできればと思いまして」
「どういった症状ですかぁ?」
「咳が、出るんです……」
「咳、ですかぁ?」
「ええ。あと、のどを押さえて、苦しそうに眉を……眉をひそめて……」
声が詰まる。
ガーネットさんの咳きこむ姿を思い出すと、胸が苦しくなってくる。
「でしたら、そちらの棚の咳止めをどうぞ~」
「特効薬ですか!?」
「市販のお薬ですよぉ~」
「市販のじゃだめなんです! ただの咳じゃないんです!」
「吐血してた、とかですかぁ?」
「そういうのでもなくて……けほ、けほ、って咳きこんでたんです!」
「……それだけですかぁ?」
「見たところ、それだけです」
「でしたら、薬の必要はありませんねぇ~」
「そ、そんな! 手の施しようがないんですか!?」
「ある意味、私が出る幕もない感じがしますけどぉ~」
「そこをなんとかお願いします! どうか苦しみから解放してやってください!」
「でしたら、やるだけやってみますねぇ」
「ありがとうございます!」
「いえいえ~。それで、咳以外に症状はありましたかぁ?」
「どことなく元気がないようにも見えました」
「咳が止まって、元気が出るお薬ですね~。ではでは、さっそく調合しちゃいますね~」
す、すごい。さすが一流の薬師のお孫さんだ。
これから特効薬を作ろうというのに、まるでプレッシャーを感じていない様子だ。
「僕にできることがあれば、なんでも言ってください!」
「ドラミもお手伝いするのだ!」
ガーネットさんのためになにかしたかったのだろう。
震えが収まったのか、ドラミも立ち上がって言う。
「ありがと~。じゃー、ドラミちゃん、そこの大瓶を取ってくれるかなぁ?」
「どれなのだ?」
「ドラミちゃんのうしろにある、目玉が入った大瓶だよ~」
「ひぐっ!? こ、これを材料にするのだ……?」
「とろっとしてて飲みやすいよぉ。それと、となりの小瓶もついでに取ってくれないかなぁ?」
「赤い液体……トマトジュースなのだ?」
「ドラゴンの血だよぉ~」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!?」
「ど、どうしたのかなぁ?」
「すみません、ドラミは血が苦手でして」
「怖いのだ! このお店、さっきから怖すぎなのだ!」
ドラミはいまにも泣きだしそう。
叫び続けると作業の邪魔になりかねないし、ドラミと外で待っていようかな。
スゥリンさんに目玉と血の瓶を渡して、僕たちは外へ出る。
「できましたよぉ~」
日が暮れて、通りが街灯に照らされる頃、スゥリンさんが小瓶を手に出てきた。
特効薬だ。
やった! これさえあれば、ガーネットさんを救えるぞ!
「ご要望通り、咳が止まって元気いっぱいになるお薬です~」
「ありがとうございます! お代はいくらですかっ?」
「30000ゴルです~」
「30000ゴル!?」
「市販の薬だと、せいぜい2000ゴルですけどねー。希少な素材を使ったから、高くなっちゃいました~」
「全然高くないです!」
支払いを済ませると、スゥリンさんにお礼を告げ、僕とドラミはその場をあとにした。
街灯に照らされた道を進み、家へと向かう。
「ガーネットの家に届けるのだ?」
「すぐに飲んでほしいからね。家にいなくても、帰ってくるまで外で待つよ」
「外で? こないだは不審者だと思われるかもって心配してたのだ」
「それとこれとは話がべつだよ」
優先すべきはガーネットさんの治療だ。
僕がどう思われようと知ったこっちゃない。
家につき、二度ノックすると、ガーネットさんが出てきた。
よかった、生きてた……。
「これ、受け取ってください!」
「なにかしら?」
「咳と疲労に効く特効薬です!」
「なぜこれを私に?」
「ガーネットさん、受付のとき調子悪そうにしてたので! さあ、手遅れになる前に飲んでください!」
「ぐいっと飲むのだ!」
「必要ないわ。もう治ったもの」
「もう治ったって……特効薬を持ってたんですか?」
「違うわ。自然に治ったのよ。のどに魚の小骨が引っかかってただけだもの」
そ、そうだったのか。
てっきり大病を患ったのかと……。
「心配かけていたとは思わなかったわ」
「心配しますよ! だってガーネットさんは僕にとって大事な……」
「大事な、なにかしら?」
「だっ、大事な…………大事な受付さんですから!」
危ない危ない。
勢いで告白するところだったよ。
薬を渡して告白するとか恩着せがましいもんね。
告白はちゃんとしたシチュエーションで、もっと仲良くなってからだ。
……その日がいつ来るかはわかんないけど。
「受付は大勢いるわ」
「ガーネットさんは特別な……馴染みの受付さんですから! たとえるなら、ガーネットさんが行きつけの店のおじいさんに花束を渡したのと同じ理由です!」
「納得したわ。ところで、その薬はいただいてもいいのかしら?」
「や、やっぱり体調が悪いんですか!?」
「花の調子が悪いのよ」
花?
……ああ、ガーネットさん、花を育ててるんだっけ。
この薬が花に効くかはわからないけど、試してみる価値はある。
「どうぞ使ってください!」
「さっそく使ってみるわ。ついでに見ていくかしら?」
「ええ!? いいんですか!?」
「驚きすぎだわ」
そりゃ驚くよ!
大好きな女の子の家に招かれたんだから!
で、でも平静を装わないと。
ニヤニヤしてたら不審がられちゃうぞ。
「お、お邪魔します……」
「お邪魔するのだ~!」
ガーネットさんの家に上がる。
寝室は2階にあるみたい。綺麗に磨かれた床に、木製の食卓に、手芸用らしき作業棚に、暖炉など、1階は生活スペースになっていた。
すごい! ガーネットさんの家だ!
へえ、いつもあの食卓で食事してるのか。
いつかこの部屋で一緒に食事ができたら幸せだな……。
「しおれてるのだ……」
ドラミが言った。
窓際に植木鉢が並べられ、そのうちのひとつ――白い花がしおれていた。
「早く治してやるのだ!」
「だね。薬が効くといいんだけど……」
僕たちが見守るなか、ガーネットさんが小瓶を鉢土に挿した。
特効薬が土に染みこんでいき――
しおれていた花が、シャキッとした。
「やったー! 復活した!」
「さすが特効薬なのだ!」
「ものすごい効き目だわ」
バンザイする僕たちの横で、ガーネットさんが嬉しげに表情をほころばせている。
ありがとうスゥリンさん!
おかげでガーネットさんの喜ぶ顔が見られたよ!
「ふたりのおかげで助かったわ」
「どういたしまして!」
「力になれてなによりなのだ! ……叫んだらお腹が空いたのだ」
「これから食事へ行くわ」
「行きつけの店、ほかにもあるんですか?」
「行きつけの店を開拓するために、いろいろと巡っているところよ。一緒に来るかしら?」
「行きます! いいんですか!?」
「だめな理由がないわ」
やった! やったよ! ガーネットさんが僕を食事に誘ってくれた!
「どうしてにやけているのかしら?」
「すっごくお腹が空いてましたからっ!」
大好きなガーネットさんと食事できることになり、僕は店についても、食事を終える頃になってもニヤニヤし続けたのだった。