「ロルフ君、探し物は見つかったかね?」
「ベルちゃん、どうやら見つかったみたいよ。ほら、ロルフ君の指とエルサちゃんの首元を見て」
 僕の指にはまった指輪と、エルサさんの首から下げられた形見の指輪を見つけたヴァネッサさんは、その意味を察したようでニコニコと笑っていた。
「あ、ああ。そういうことか。おめでとうと言うべきか」
ベルンハルトさんもヴァネッサさんの言葉で事態を察したようだ。
「ベルちゃんも、そろそろわたしに指輪をくれてもいいと思うんだけど?」
「指輪ならこの前、魔力の回復を促進させる魔石が付いたやつを買わされた気がするが?」
「そういう実用の指輪じゃなくてー」
 ベルンハルトさんは、ヴァネッサさんのことを好きなんだろうけど、いざ関係を進める話になると途端に話をはぐらかしていた。
 でも、どう見てももう二人は夫婦みたいな感じなんだよな。
「んんっ! まぁ、ロルフ君たちが婚約したことは喜ぶべき慶事として。そろそろ、アグドラファンの街での仕事を終えて、次の街へ行こうと思うのだが。ロルフ君たちの方の準備はいいだろうか?」
 ヴァネッサさんに指輪をねだられたベルンハルトさんは、わざとらしく咳ばらいをすると、話を変えて街の移動をすることを告げていた。
 ついにアグドラファンの街ともお別れか……。
 形見の指輪も見つかったし、エルサさんに婚約指輪も渡せたし、実家は祖母の知り合いの人が管理してくれるって話だし、街で別れを告げておく人にはもう告げてある。
 やるべきことはやってあるから、すぐにでも出発できる状態だった。
「準備はもう大丈夫です。形見の指輪も見つけられましたしね。次はどこの街に向かうんです?」
「アグドラファンの冒険者ギルドで依頼を受けた希少金属の輸送のため、鍛冶の街ミーンズに向かう。あの街ならロルフ君たちの作った品質の良い武具もよい値が付くだろうし」
「鍛冶の街ミーンズですか。名前は聞いたことあったけど一度も行ったことないや」
「あの街は年中煤が飛んでてすぐに汚れるのよねー。あまり長居はしたくないわ」
「リズィー、次はミーンズだって」
 エルザさんに抱きあげられたリズィーは、ヴァネッサさんの汚れるという話を聞いてイヤイヤと首を振っていた。
「ミーンズでの滞在は短い予定なので問題はないはずだ。さて、ロルフ君たちも準備はできているようだし、そろそろ出発しよう」
「はい! 行きましょう!」
 こうして僕はエルサさんと共に、ベルンハルトさんの『冒険商人』のパーティーに加入し、一人前の冒険者になるため、生まれた街を出て、さまざまな街を巡る旅に出ることになった。