装備を整えた僕たちは、助けを求めに来た冒険者の案内に従い、ダンジョンの中に入っていく。
ヴァネッサさんに水中呼吸の魔法をかけてもらい、水没区画の狭い通路を慎重に通り抜け、階段を昇っていくと、案内役の冒険者が止まった。
「この先にいるんだ。音がしてる」
階段を昇った先にある大きな鉄扉は閉まっており、中の様子は窺えないが、獅子の咆哮や物を叩く音が漏れ聞こえてきた。
「毒の霧の対策は水中呼吸の魔法でできるから、もう一回かけ直しておくわね」
ヴァネッサさんが杖を構えて、改めて水中呼吸の魔法をかけ直してくれる。
薄い膜に包まれたことで、毒の霧の中に入ってもダメージは負わなくなるはずだった。
「私が近接を挑んで魔物の眼を引き付ける。ロルフ君はヴァネッサとエルサ君を守ってくれたまえ。ヴァネッサの魔法が主攻撃、エルサ君の弓を援護として遠距離を主体に敵に挑む。魔物を倒して安全を確保してから救出という段階に進めるつもりだ。だが、倒せそうになければ、救出を優先に切り替えるつもりでいるから、各自心づもりはしておくように」
リーダーであるベルンハルトさんが、戦闘に入る前に目的を整理して伝えてくれた。
僕はエルサさんとヴァネッサさんに魔物が近づかないように追い払う役目か。
いつかはベルンハルトさんに認めてもらって、囮役を務めさせてもらえるようにならないとな。
そのためには、まず与えられた仕事をしっかりとこなさないと。
鉄の剣を引き抜き、鉄の盾を構え直すと、準備ができたことをベルンハルトさんに視線で伝えた。
「では、いくぞ」
案内役の冒険者が重い鉄の扉を押し開けると、短剣を構えたベルンハルトさんが先頭に立って部屋の中に入っていく。
その後を遅れないよう一緒に駆け込んだ。
な、なんだ!? あの魔物!? あの冒険者の話は大げさだと思ってたけど。
本当にあんな魔物が存在してるなんて……嘘だろ!?
広い空間を有する部屋の中には、獅子の頭と身体を持ち、肩から山羊の頭を生やし、背中に巨大な蝙蝠の羽を生やし、尻尾が大蛇になった生物が小部屋に繋がるドアをひっかいている姿があった。
魔物の姿を見ても、ベルンハルトさんは怯んだ様子は見せず、魔物に挑みかかっていく。
速い! 身体の小ささを活かして、もう懐に入り込んだ!
ベルンハルトさんは、大きな魔物の足元に入りこみ、愛用の短剣で傷を与えていた。
「ベルちゃんも久しぶりに本気のようだわ。わたしも本気でやらせてもらおうかしらね。エルサちゃんは山羊の頭を狙えるかしら?」
「はい! 今なら行けますよ」
「おっけ、わたしが魔法を放ったら、続いて連射していいわ。ロルフちゃんはアレがこっちに来たらよろしくね!」
「はい! 僕が二人には近づけさせません!」
魔物の意識が足元で攻撃を加えるベルンハルトさんに向いたため、魔物の動きは止まっていた。
「ベルちゃん!」
声をかけたヴァネッサさんの杖の先に、氷の塊が浮かんだかと思うと、すごい速度で飛び出していた。
「うむ、離脱する」
ヴァネッサさんの声だけで、何が来るかを察したベルンハルトさんは、魔物の足元から転がり出ると、直後に魔法と矢が命中した。
命中した魔法によって、魔物の身体の一部が凍り付き、エルサさんの狙撃は何本も連続して山羊の頭に命中していく。
魔物が悲鳴に似た咆哮を上げると、尻尾の大蛇の口から灰色の霧が吐き出された。
これが毒の霧か。
ヴァネッサさんの魔法がなかったら、近づくのも困難な相手だな。
尻尾の大蛇から吐き出された灰色の霧は、広い空間を一気に満たした。
同時に獅子の身体から炎が噴き上がり、凍り付いていた箇所は一気に溶かされていく。
「どうやら奇襲でやりきれなかったようだな。ヴァネッサの魔法をくらっても、ピンピンしているうえ、身体も燃え上がるとは誤算だった」
魔物が身体に炎をまとったため、近接攻撃を諦めたベルンハルトさんが、自分の隣にまで下がってきた。
「ロルフ君、すまない。私とともに囮を頼む。ヴァネッサたちには近づけさせないでくれ」
「了解です! 炎に対しては僕の装備の方が耐性がありそうですし、前に出ます!」
魔物はこちらに身体を向けると、エルサさんの弓から放たれる矢やヴァネッサさんの魔法をもろともせずに突っ込んできた。
魔物に怯む様子がない! でも行かせるわけにはいかない!
突っ込んでくる魔物に向かい、鉄の盾を構えると、衝撃に備えて足を踏ん張った。
「ロルフ君! 避けて!」
矢を放っているエルサさんから、悲鳴のような声が上がった。
魔物が盾に触れた瞬間、身体に響く衝撃が伝わる。
けっこうな衝撃がきて痺れる! けど、これくらいなら大丈夫だ!
鉄の盾は見事に魔物の突進を受け止め、身体へのダメージはほとんど感じられない程度であった。
受け止めた魔物の身体に鉄の剣を突き立てる。
魔物は怒りを含んだ咆哮を上げ、前脚でこちらをひっかいてきた。
獅子の身体から燃え上がる炎の熱が、装備を通して皮膚を焼いてくる。
「あちちっ! 炎の熱で装備が焼けてる!」
「ロルフちゃんが丸焼けにならないようにしないとね!」
ヴァネッサさんの杖が光ったかと思うと、入ってきた入口から意思を持ったように動く水の塊が出てきたかと思うと、魔物の身体にぶつかった。
大量の水が、魔物の身体から噴き出す炎を鎮火させる。
「ヴァネッサ、よくやった。ロルフ君、一気に畳かけるぞ!」
「分かりました! 援護します!」
魔物の身体を守っていた炎が消えたことで、ベルンハルトさんも攻撃を再開し、毒の霧を吐き出し続けていた大蛇の尻尾を切り落とすと、地面に落ちた大蛇の頭にトドメを刺すため短剣を突き立てた。
「毒の霧はこれで出せまい」
「ベルンハルトさん、魔物が飛び上がります!」
形勢不利と見た魔物は、背中の蝙蝠の羽を羽ばたかせると近接武器の届く範囲を離れた。
「山羊の角が何か光ってるけど!?」
エルサさんが警告を発すると同時に、山羊の角から発生した雷がこちらに向かい降り注いだ。
「これは雷撃の魔法!? 魔法まで使うの!? 嘘でしょ!?」
ヴァネッサさんがとっさに張ってくれた魔法障壁によって、降り注いだ雷は弾き返された。
複数の生物の特徴を併せ持つだけでなく、魔法まで使う魔物なんて……。
目の前のこいつはいったいなんだ?
目の前の魔物は、自分の知っている魔物とは異質すぎる能力を示していた。
ヴァネッサさんに水中呼吸の魔法をかけてもらい、水没区画の狭い通路を慎重に通り抜け、階段を昇っていくと、案内役の冒険者が止まった。
「この先にいるんだ。音がしてる」
階段を昇った先にある大きな鉄扉は閉まっており、中の様子は窺えないが、獅子の咆哮や物を叩く音が漏れ聞こえてきた。
「毒の霧の対策は水中呼吸の魔法でできるから、もう一回かけ直しておくわね」
ヴァネッサさんが杖を構えて、改めて水中呼吸の魔法をかけ直してくれる。
薄い膜に包まれたことで、毒の霧の中に入ってもダメージは負わなくなるはずだった。
「私が近接を挑んで魔物の眼を引き付ける。ロルフ君はヴァネッサとエルサ君を守ってくれたまえ。ヴァネッサの魔法が主攻撃、エルサ君の弓を援護として遠距離を主体に敵に挑む。魔物を倒して安全を確保してから救出という段階に進めるつもりだ。だが、倒せそうになければ、救出を優先に切り替えるつもりでいるから、各自心づもりはしておくように」
リーダーであるベルンハルトさんが、戦闘に入る前に目的を整理して伝えてくれた。
僕はエルサさんとヴァネッサさんに魔物が近づかないように追い払う役目か。
いつかはベルンハルトさんに認めてもらって、囮役を務めさせてもらえるようにならないとな。
そのためには、まず与えられた仕事をしっかりとこなさないと。
鉄の剣を引き抜き、鉄の盾を構え直すと、準備ができたことをベルンハルトさんに視線で伝えた。
「では、いくぞ」
案内役の冒険者が重い鉄の扉を押し開けると、短剣を構えたベルンハルトさんが先頭に立って部屋の中に入っていく。
その後を遅れないよう一緒に駆け込んだ。
な、なんだ!? あの魔物!? あの冒険者の話は大げさだと思ってたけど。
本当にあんな魔物が存在してるなんて……嘘だろ!?
広い空間を有する部屋の中には、獅子の頭と身体を持ち、肩から山羊の頭を生やし、背中に巨大な蝙蝠の羽を生やし、尻尾が大蛇になった生物が小部屋に繋がるドアをひっかいている姿があった。
魔物の姿を見ても、ベルンハルトさんは怯んだ様子は見せず、魔物に挑みかかっていく。
速い! 身体の小ささを活かして、もう懐に入り込んだ!
ベルンハルトさんは、大きな魔物の足元に入りこみ、愛用の短剣で傷を与えていた。
「ベルちゃんも久しぶりに本気のようだわ。わたしも本気でやらせてもらおうかしらね。エルサちゃんは山羊の頭を狙えるかしら?」
「はい! 今なら行けますよ」
「おっけ、わたしが魔法を放ったら、続いて連射していいわ。ロルフちゃんはアレがこっちに来たらよろしくね!」
「はい! 僕が二人には近づけさせません!」
魔物の意識が足元で攻撃を加えるベルンハルトさんに向いたため、魔物の動きは止まっていた。
「ベルちゃん!」
声をかけたヴァネッサさんの杖の先に、氷の塊が浮かんだかと思うと、すごい速度で飛び出していた。
「うむ、離脱する」
ヴァネッサさんの声だけで、何が来るかを察したベルンハルトさんは、魔物の足元から転がり出ると、直後に魔法と矢が命中した。
命中した魔法によって、魔物の身体の一部が凍り付き、エルサさんの狙撃は何本も連続して山羊の頭に命中していく。
魔物が悲鳴に似た咆哮を上げると、尻尾の大蛇の口から灰色の霧が吐き出された。
これが毒の霧か。
ヴァネッサさんの魔法がなかったら、近づくのも困難な相手だな。
尻尾の大蛇から吐き出された灰色の霧は、広い空間を一気に満たした。
同時に獅子の身体から炎が噴き上がり、凍り付いていた箇所は一気に溶かされていく。
「どうやら奇襲でやりきれなかったようだな。ヴァネッサの魔法をくらっても、ピンピンしているうえ、身体も燃え上がるとは誤算だった」
魔物が身体に炎をまとったため、近接攻撃を諦めたベルンハルトさんが、自分の隣にまで下がってきた。
「ロルフ君、すまない。私とともに囮を頼む。ヴァネッサたちには近づけさせないでくれ」
「了解です! 炎に対しては僕の装備の方が耐性がありそうですし、前に出ます!」
魔物はこちらに身体を向けると、エルサさんの弓から放たれる矢やヴァネッサさんの魔法をもろともせずに突っ込んできた。
魔物に怯む様子がない! でも行かせるわけにはいかない!
突っ込んでくる魔物に向かい、鉄の盾を構えると、衝撃に備えて足を踏ん張った。
「ロルフ君! 避けて!」
矢を放っているエルサさんから、悲鳴のような声が上がった。
魔物が盾に触れた瞬間、身体に響く衝撃が伝わる。
けっこうな衝撃がきて痺れる! けど、これくらいなら大丈夫だ!
鉄の盾は見事に魔物の突進を受け止め、身体へのダメージはほとんど感じられない程度であった。
受け止めた魔物の身体に鉄の剣を突き立てる。
魔物は怒りを含んだ咆哮を上げ、前脚でこちらをひっかいてきた。
獅子の身体から燃え上がる炎の熱が、装備を通して皮膚を焼いてくる。
「あちちっ! 炎の熱で装備が焼けてる!」
「ロルフちゃんが丸焼けにならないようにしないとね!」
ヴァネッサさんの杖が光ったかと思うと、入ってきた入口から意思を持ったように動く水の塊が出てきたかと思うと、魔物の身体にぶつかった。
大量の水が、魔物の身体から噴き出す炎を鎮火させる。
「ヴァネッサ、よくやった。ロルフ君、一気に畳かけるぞ!」
「分かりました! 援護します!」
魔物の身体を守っていた炎が消えたことで、ベルンハルトさんも攻撃を再開し、毒の霧を吐き出し続けていた大蛇の尻尾を切り落とすと、地面に落ちた大蛇の頭にトドメを刺すため短剣を突き立てた。
「毒の霧はこれで出せまい」
「ベルンハルトさん、魔物が飛び上がります!」
形勢不利と見た魔物は、背中の蝙蝠の羽を羽ばたかせると近接武器の届く範囲を離れた。
「山羊の角が何か光ってるけど!?」
エルサさんが警告を発すると同時に、山羊の角から発生した雷がこちらに向かい降り注いだ。
「これは雷撃の魔法!? 魔法まで使うの!? 嘘でしょ!?」
ヴァネッサさんがとっさに張ってくれた魔法障壁によって、降り注いだ雷は弾き返された。
複数の生物の特徴を併せ持つだけでなく、魔法まで使う魔物なんて……。
目の前のこいつはいったいなんだ?
目の前の魔物は、自分の知っている魔物とは異質すぎる能力を示していた。