明日に備え就寝していると、ドアが激しく叩かれる音がした。
ん? こんな時間にこんな場所で誰だろうか?
郊外にある森の近くであるため、夜間に人が来ることはほとんどないだろうし。
ゴブリンとかの魔物が襲ってきてるのか?
それにしては、魔物の気配に敏感な馬たちが騒いでないが。
「ロルフ君、あの音、誰か来たの?」
「こんな時間に来訪者だとは思えんな」
「でも、泥棒さんにしては堂々としすぎてる気がするけど」
叩かれるドアの音に、エルサさんやベルンハルトさんたちも気付いたようで、ベッドから出て様子を窺っていた。
「私の紅炎の散策のドアは簡単に破れる物ではないが、強く叩かれて凹まされたくないので、声をかけてみるとしよう」
「ベルンハルトさん、気を付けてくださいね。もしもの時は援護しますので」
護身用にとベッドサイドに置いていた鉄の短剣を手にする。
「まぁ、ドアを開けてやり取りする気はない。それに、こういったことには慣れているから大丈夫」
ベルンハルトさんは愛用の短剣をベルトに差すと、ドアに近づいていく。
「私の大事な荷馬車のドアを強く叩くのは何者だ?」
「す、すまん! 『黄金の獅子』の者だ! 仲間がダンジョン内で孤立してるんだ! 悪いが救出の手助けをして欲しい!」
ドアを叩いていたのは、フィガロさんが率いてる『黄金の獅子』に所属している冒険者の一人だと名乗った。
「ダンジョン内で孤立? フィガロ殿たちは、私たちがまだ探索に手を付けてなかった水没していた先の区画に入ったということかね?」
ベルンハルトさんは慎重を期して、ドアを開けずに『黄金の獅子』の者だと名乗った人物に誰何を続けた。
「ああ、そうだ。あの水没区画の狭い通路の先は、とても広い空間の部屋になっていて、いくつかの小部屋があったんだ。フィガロさんの指示で少人数に分かれて調べてたんだが、しばらくして天井から正体不明の魔物が一体だけ降りてきて仲間を襲い始めた。オレは入ってきた入口に一番近くて、まだ魔法の効果も残ってたから逃げ出すことができたが、他の仲間はまだあの部屋の小部屋に立て籠ってると思う」
黄金の獅子に属する冒険者は、ドア越しでも分かるほど焦った声で、ことの経緯を喋っている。
「フィガロ殿たちが、何らかの仕掛けられた罠にはまったことは理解したが、正体不明の魔物というのはなんだね?」
「獅子の頭と身体とは別に山羊の頭が生えてて、背中には蝙蝠の羽、尻尾には大蛇の生えたやつだ。あんな魔物なんて見たことないとしか言いようがない!」
いろんな魔物がいるけど、今聞いた特徴に合致する魔物の噂は聞いたこともない。
魔結晶を取り込んだ生物が魔物化する際は、元になった生物の特徴を残したまま、魔物になるんだけど。
複数の生物の特徴を持つ魔物が出たという『黄金の獅子』の冒険者の言葉に、首を傾げてしまった。
「私も多くの魔物は見てきたが、そんな魔物は聞いたこともない。本当に見たのかね?」
ベルンハルトさんも冒険者の言葉に、自分と同じ疑問を感じたようで、再度確認をしていた。
「ああ、見た! 本当にいるんだ! 炎は吐くし、毒の霧も吐く。それに魔法まで使ってきやがるんだぞ! さすがにガトーさんやアリアさんでも、あの魔物には苦戦してた。フィガロさんを守りながらじゃあの二人でも倒されちまう。それに大貴族の嫡男であるフィガロさんが死んだら、関係者は全員捕まって処刑されちまう。頼む、礼は弾むから助けてくれ!」
切羽詰まっている冒険者は、こちらに催促するように必死で助けを求めてきた。
「あの貴族の坊ちゃんに関わると、面倒くさいわね。人様が命がけで探索してるところへ割り込んだうえに、勝手に罠に掛ったのを助ける必要なんてあるかしら。断って、街に救援要請するように言ったらどう?」
ヴァネッサさんは、明らかに冒険者の救援依頼に対して難色を示していた。
よほど、探索に割り込まれたことを気にしているらしい。
たしかに命綱が絡まっていたら、事故になってた可能性もあるんで、ヴァネッサさんが怒るのも仕方ないよな。
僕だって、あんな状況で割り込まれてたら怒ってたと思うし。
けど、あの冒険者が街に救援依頼に行って、僕たちがフィガロさんたちを見捨てたと吹聴されると、ヴァネッサさんの言っている面倒よりも、さらに面倒なことになりかねない気がする。
フィガロさんは冒険者だけど、アグドラファンの街を含む近隣の土地を領有する大貴族フォルツェン家の嫡男なので、その嫡男の死に間接的だとしても関わっていたら処罰される可能性もある。
面倒だけど、助けないと災難がこっちにも降りかかってきそうだ。
「ヴァネッサさん、フィガロさんはあんな性格ですが、いちおうフォルツェン家の嫡男ですし、見殺しはわりとマズいことになりそうです」
「ロルフ君の言う通りだ。逆に助ければ、彼の父親と更に太い伝手を持つことになる。それにフィガロ殿も少しは大人しくするだろうしな」
「じゃあ、助けるだけね。それと救出費用はたんまりと支払ってもらいましょう」
ヴァネッサさんは、あまり乗り気ではなさそうだが、フィガロさんたちの救出に同意してくれた。
「稼いだお金でエルサちゃんに綺麗なドレスでも仕立てようかしらねー」
「あ、あたしにドレスですか!? 似合いませんよ」
「ロルフ君が、とっても気に入るようなドレスを作ってみない?」
「ロルフ君が!? それって本当ですか!?」
「ええ、若い男の子なら絶対に気に入ると思うやつがあるの」
ヴァネッサさんのニヤニヤとした顔に、一抹の不安を覚えるが、ドレス姿のエルサさんも見てみたい。
って、今はそんなことを考えてる時じゃなかった。
フィガロさんたちを救出しないと!?
「ヴァネッサ、今はフィガロ殿たちの救出が先だ。ロルフ君、エルサ君、すぐに装備を整えて救出に向かうぞ」
「はい! すぐに準備してきます! エルサさん、装備を取りに行きましょう」
「え? あ、うん!」
ヴァネッサさんからドレスの話を聞き出そうとしていたエルサさんの手を引くと、貨物用の荷馬車にある装備を取りに走った。
ん? こんな時間にこんな場所で誰だろうか?
郊外にある森の近くであるため、夜間に人が来ることはほとんどないだろうし。
ゴブリンとかの魔物が襲ってきてるのか?
それにしては、魔物の気配に敏感な馬たちが騒いでないが。
「ロルフ君、あの音、誰か来たの?」
「こんな時間に来訪者だとは思えんな」
「でも、泥棒さんにしては堂々としすぎてる気がするけど」
叩かれるドアの音に、エルサさんやベルンハルトさんたちも気付いたようで、ベッドから出て様子を窺っていた。
「私の紅炎の散策のドアは簡単に破れる物ではないが、強く叩かれて凹まされたくないので、声をかけてみるとしよう」
「ベルンハルトさん、気を付けてくださいね。もしもの時は援護しますので」
護身用にとベッドサイドに置いていた鉄の短剣を手にする。
「まぁ、ドアを開けてやり取りする気はない。それに、こういったことには慣れているから大丈夫」
ベルンハルトさんは愛用の短剣をベルトに差すと、ドアに近づいていく。
「私の大事な荷馬車のドアを強く叩くのは何者だ?」
「す、すまん! 『黄金の獅子』の者だ! 仲間がダンジョン内で孤立してるんだ! 悪いが救出の手助けをして欲しい!」
ドアを叩いていたのは、フィガロさんが率いてる『黄金の獅子』に所属している冒険者の一人だと名乗った。
「ダンジョン内で孤立? フィガロ殿たちは、私たちがまだ探索に手を付けてなかった水没していた先の区画に入ったということかね?」
ベルンハルトさんは慎重を期して、ドアを開けずに『黄金の獅子』の者だと名乗った人物に誰何を続けた。
「ああ、そうだ。あの水没区画の狭い通路の先は、とても広い空間の部屋になっていて、いくつかの小部屋があったんだ。フィガロさんの指示で少人数に分かれて調べてたんだが、しばらくして天井から正体不明の魔物が一体だけ降りてきて仲間を襲い始めた。オレは入ってきた入口に一番近くて、まだ魔法の効果も残ってたから逃げ出すことができたが、他の仲間はまだあの部屋の小部屋に立て籠ってると思う」
黄金の獅子に属する冒険者は、ドア越しでも分かるほど焦った声で、ことの経緯を喋っている。
「フィガロ殿たちが、何らかの仕掛けられた罠にはまったことは理解したが、正体不明の魔物というのはなんだね?」
「獅子の頭と身体とは別に山羊の頭が生えてて、背中には蝙蝠の羽、尻尾には大蛇の生えたやつだ。あんな魔物なんて見たことないとしか言いようがない!」
いろんな魔物がいるけど、今聞いた特徴に合致する魔物の噂は聞いたこともない。
魔結晶を取り込んだ生物が魔物化する際は、元になった生物の特徴を残したまま、魔物になるんだけど。
複数の生物の特徴を持つ魔物が出たという『黄金の獅子』の冒険者の言葉に、首を傾げてしまった。
「私も多くの魔物は見てきたが、そんな魔物は聞いたこともない。本当に見たのかね?」
ベルンハルトさんも冒険者の言葉に、自分と同じ疑問を感じたようで、再度確認をしていた。
「ああ、見た! 本当にいるんだ! 炎は吐くし、毒の霧も吐く。それに魔法まで使ってきやがるんだぞ! さすがにガトーさんやアリアさんでも、あの魔物には苦戦してた。フィガロさんを守りながらじゃあの二人でも倒されちまう。それに大貴族の嫡男であるフィガロさんが死んだら、関係者は全員捕まって処刑されちまう。頼む、礼は弾むから助けてくれ!」
切羽詰まっている冒険者は、こちらに催促するように必死で助けを求めてきた。
「あの貴族の坊ちゃんに関わると、面倒くさいわね。人様が命がけで探索してるところへ割り込んだうえに、勝手に罠に掛ったのを助ける必要なんてあるかしら。断って、街に救援要請するように言ったらどう?」
ヴァネッサさんは、明らかに冒険者の救援依頼に対して難色を示していた。
よほど、探索に割り込まれたことを気にしているらしい。
たしかに命綱が絡まっていたら、事故になってた可能性もあるんで、ヴァネッサさんが怒るのも仕方ないよな。
僕だって、あんな状況で割り込まれてたら怒ってたと思うし。
けど、あの冒険者が街に救援依頼に行って、僕たちがフィガロさんたちを見捨てたと吹聴されると、ヴァネッサさんの言っている面倒よりも、さらに面倒なことになりかねない気がする。
フィガロさんは冒険者だけど、アグドラファンの街を含む近隣の土地を領有する大貴族フォルツェン家の嫡男なので、その嫡男の死に間接的だとしても関わっていたら処罰される可能性もある。
面倒だけど、助けないと災難がこっちにも降りかかってきそうだ。
「ヴァネッサさん、フィガロさんはあんな性格ですが、いちおうフォルツェン家の嫡男ですし、見殺しはわりとマズいことになりそうです」
「ロルフ君の言う通りだ。逆に助ければ、彼の父親と更に太い伝手を持つことになる。それにフィガロ殿も少しは大人しくするだろうしな」
「じゃあ、助けるだけね。それと救出費用はたんまりと支払ってもらいましょう」
ヴァネッサさんは、あまり乗り気ではなさそうだが、フィガロさんたちの救出に同意してくれた。
「稼いだお金でエルサちゃんに綺麗なドレスでも仕立てようかしらねー」
「あ、あたしにドレスですか!? 似合いませんよ」
「ロルフ君が、とっても気に入るようなドレスを作ってみない?」
「ロルフ君が!? それって本当ですか!?」
「ええ、若い男の子なら絶対に気に入ると思うやつがあるの」
ヴァネッサさんのニヤニヤとした顔に、一抹の不安を覚えるが、ドレス姿のエルサさんも見てみたい。
って、今はそんなことを考えてる時じゃなかった。
フィガロさんたちを救出しないと!?
「ヴァネッサ、今はフィガロ殿たちの救出が先だ。ロルフ君、エルサ君、すぐに装備を整えて救出に向かうぞ」
「はい! すぐに準備してきます! エルサさん、装備を取りに行きましょう」
「え? あ、うん!」
ヴァネッサさんからドレスの話を聞き出そうとしていたエルサさんの手を引くと、貨物用の荷馬車にある装備を取りに走った。