紅炎の散策(フレアウォーク)号の中に戻ると、他に解放されたスキルの確認をしていく。
「あとは道具成功率を上げるスキルと、装備合成Ⅰというスキルが解放されているんですが」
 先ほど試した物以外に解放されたスキルを、ベルンハルトさんたちに伝える。
「道具成功率は先ほど試した武器防具成功率のと同じで、道具関係の成功率を上げるものだと推測できるが。装備合成は武器や防具を合成できるスキルだろうか? ロルフ君に見せてもらった素材合成は生産過程を飛ばせる物だったが、それとはまた別のスキルということだろうな」
「色々考えるよりも試してみればいいじゃないの。エルサちゃんが破壊すれば、ロルフちゃんのスキルが使えるようになるんでしょ? 中古の鉄の剣くらいなら安いもんだし。ほら、エルサさん、やっちゃって」
「え? あ、はい」
 ヴァネッサさんに促されたエルサさんが、さっきの実験で残った中古の鉄の剣を破壊する。
 一本だと装備合成のスキルが反応しないなぁ。
 素材合成と同じように破壊された物が二つ以上で反応するのか。
「エルサさん、もう一本鉄の剣を破壊してもらえます?」
「うん、これでいい?」
 エルサさんがもう一本の鉄の剣を破壊すると、装備合成が使えるようになった。
 破壊された鉄の剣は淡い光を帯び、バラバラになって浮かんでいる。
 >右手:鉄の剣(普通品質) 左手:鉄の剣(普通品質)
 >装備合成可能品がセットされました。
 >装備合成をしますか?
 承諾を意識すると、再生スキルが発動した。
―――――――――――
 再生スキル
  LV:25
  経験値:95/600
  対象物:☆鉄の剣(分解品)

 >鉄の剣+1(普通):100%
―――――――――――
 発動したけど、いつもと違って普通品質以外が選べなくなってる。
 それと武器の下に+1が追加されてるな。
 選択肢がないため、普通品質での再生を選ぶと、二つの鉄の剣は強い光を発していた。
>鉄の剣+1(普通品質)の再構成に成功しました。
>鉄の剣+1(普通品質)
 攻撃力:+7
 資産価値:三〇〇〇ガルド
 バラバラになって浮かんでいた二本の鉄の剣は、光がおさまると一本の剣に変化していた。
 一本の剣になったけど、性能的に少し強くなって価値が増えた感じか。
 普通品質しか選べなかったというのは、エルサさんが破壊した鉄の剣が普通品質の二本だったからということだろう。
「どうやら、装備合成スキルは同じ品質の装備を強化できるスキルみたいです。性能と価値が上昇する感じですね。品質向上とは別の強化になってる感じです」
「装備品を強化できるスキルだと!? つまり伝説品質の物も同じ物が二つあれば更に強化できるということかね!?」
 解放された装備合成スキルの効果を聞いたベルンハルトさんが、驚いた顔をしてこちらを見ている。
 装備品の性能は、鍛冶師の腕とスキルの影響で決まるって神官様たちは言ってたな。
 でも、この装備合成は品質とは別な力で装備品を強化していくみたいだし、そりゃあ驚くよね。
 どこまで強化できるかは未知数だけど、再生スキルを成長させていけば、最強の武器防具を作ることができそうな気もする。
「たぶん、そんなスキルだと思います。今ですら切れ味鋭い伝説品質の鉄の剣ですけど、装備合成で強化していったらとんでもない武器になる気がします。ただ、成功率表示がされているんで、失敗したら二本とも消えそうですが」
 ベルンハルトさんは強化された鉄の剣を受け取ると、鑑定スキルを発動させて価値や性能の査定をしていた。
「装備名に+1の表記など初めて見た。この装備合成で作りだした装備は市場に出さない方がいい。鑑定スキルを持つ者たちがきっといぶかしむだろうしな。自分たちの装備を強化するためだけに使うのに限った方が無難だと思われる」
「ですね。エルサさんの装備や僕の装備、ベルンハルトさんたちの物に限っておくことにします。自分たちの命を守る装備には、惜しみなくお金を投じるつもりではいますので。それと合成すると性能は強化されますけど、資産価値的には二本分にはならないみたいですしね」
 二本で四〇〇〇ガルドになる鉄の剣が、強化すると一本になって三〇〇〇ガルドの価値になってしまうのは痛い。
 ベルンハルトの忠告もあるし、売り物は品質向上のみにして、自分たちの装備分分だけ強化していった方がパーティーに利益も出せるはずだ。
「数量指定も品質向上もあるうえ、装備品の強化まで使えるなんて、ロルフちゃんの再生スキルはやたらと万能すぎるスキルになってるわね……」
「でも、エルサさんがいないと使えないスキルですから」
「そこが運命的なところよね。つまり、ロルフちゃんがエルサちゃんに逃げられたら使えなくなるスキルなわけだし」
 再生スキルの力に感心していたヴァネッサさんが、エルサさんと僕の顔を交互に見て笑っていた。
 ヴァネッサさん、それって笑い事じゃないです。
 スキルの力は使えなくなるのはしょうがないからガマンできるけど、エルサさんに嫌われるとか考えるだけで心臓が痛くなるんですが!?
「ヴァネッサさん、あたしがロルフ君のもとから逃げるなんてことはないですから大丈夫です」
「もう、そんなことは分かってるわよ。エルサちゃんがロルフちゃんにぞっこんなのは知ってるんだし。ただね、依頼中にはぐれたり、一時的に二人が離れることは、今後起きることもあるだろうから、その時はロルフちゃんの再生スキルは使えなくなるって理解しておいた方がいいかなっておもったの」
 なるほど、僕とエルサさんが別行動するって状況も出てくる可能性はあるということか。
 嫌われた時の事とか考えて損した気がする。
「ロルフちゃんも、安心しなさいって。エルサちゃんは他の男に浮気するような子じゃないだろうしね。ロルフちゃんがベルちゃんと同じようにどっしりと構えてれば、ちゃんとついてきてくれるわよ」
「そ、そういうものですか?」
「ええ、そういうものよ」
 ホッと安堵しているこちらの内心を見抜いたヴァネッサさんが、ニヤニヤと笑っていた。
「んんっ! ヴァネッサ、あまりロルフ君たちをからかってやるんじゃない。ロルフ君、今回解放されたスキルはそれくらいだったか?」
 空気を読んで咳ばらいをしたベルンハルトさんによって場が静まる。
「あ、はい。数量指定Ⅰ、装備合成Ⅰ、武器防具成功率上昇、道具成功率上昇の四つが、今回解放されたスキルの全てです」
「うむ、報告ありがとう。さっきも外で言ったが、ロルフ君のスキルの件は口外を堅く禁じさせてもらうのでよろしく頼む」
「はいはい、お口はちゃんと締めておきます」
「あたしも外では言いません」
「僕も隠し通します」
「では、あとは貨物用に積んである中古で買い漁った装備品の高品質化と、強化できそうなものは強化に挑んでみるとしよう。ロルフ君たちの装備が強化されれば我々も楽をできるだろうしな」
 その後、夕食の支度をするといったヴァネッサさんと、そのご飯のつまみ食いを狙うリズィーを除き、三人で貨物用の荷馬車に行くことにした。