買い取ったクズ魔結晶を待つ間、フランさんと雑談していると、例の僕たちが発見したダンジョンの話をきり出された。
「もし、ベルンハルト殿にお時間があれば、ロルフ君の見つけた例の新ダンジョンの調査を委託したいと思っておりまして。ダンジョン探索において、ベルンハルト殿ほど実績がある冒険者もおりませんからな。それにロルフ君がいれば、案内人はいらないでしょうし」
「新ダンジョンの探索ですか」
「ええ、街に近い場所にあり、冒険者ギルドとしても早急にダンジョンの全貌を把握したいと思っておりまして委託先を探していたのです」
「アグドラファンでの商談は終わりましたから、時間はありますが――。新ダンジョンの探索となるとある程度の期間、拘束されるので、前金にこれくらいは頂きたく」
 ベルンハルトさんは算盤を弾いて、フランさんの前に差し出す。
 前金で三〇〇万ガルド!? そんなにとるの?
「ふむ、やはりそれくらいになりますか……ロルフ君の案内付きということで、期間も短縮できるでしょうし、これくらいにしてもらえませんか? 前金とは別にロルフ君個人へのダンジョン発見褒賞も出さないといけないので」
 フランさんが、ベルンハルトさんの算盤を弾き直していた。
 五〇万ガルドの値下げ要求か。僕にはたしか褒賞として一〇万ガルドが支給されるとか言ってたな。
「前金二五〇万ガルドですか……。赤字になりそうな気もする金額だが」
 Sランク冒険者のベルンハルトさんたちであるため、短期間で達成できる依頼を選べば二五〇万ガルドくらいはすぐに稼げるとおもわれる。
「探索と調査が終了したところで成功報酬は三〇〇万ガルド、発見物は全てベルンハルト殿の物というところでやって頂けないでしょうか?」
 拘束期間は不明、前金二五〇万ガルド、成功報酬三〇〇万ガルド+探索中の発見物の所有権か。
 僕たちがある程度探索しているため、拘束期間は長くならないと思う。
 なので、わりと実入りのいい仕事になりそうな気もする。
 僕は隣にいたベルンハルトさんに自分の意見を耳打ちする。
『ダンジョンはあらかた僕たちが探索を終えてますし、そう大きなダンジョンでもなさそうでしたので二日もあれば探索と調査は終えられそうですよ』
 耳打ちを聞いたベルンハルトさんは、しばらく無言で考え込んでいた。
「承知した。フラン殿のご依頼受けることにしよう。調査終了として提出する物は詳細なダンジョンマップの他に必要なものがありますかな?」
「発生する魔物の調査書は提出してもらいたい。街に近いダンジョンだから、魔物は特に把握しておきたい」
 闇が貯まりやすいダンジョンは、魔結晶が生成されやすく、それを摂取した生物が魔物化しやすい場所でもあった。
 そのため、中の魔物を討伐してもしばらくすると、また魔物が徘徊し始める。
 そうならないために街に近いダンジョンは定期的に冒険者を派遣して、闇が貯まらないように巡回させ、魔物を駆除したりしていた。
「承知した。詳細なダンジョンマップと生息魔物調査書の提出をもって、調査完了とさせてもらうということで依頼を請け負おう」
「助かります。アグドラファンにはダンジョン探索を得意とする冒険者が少なくてね。他の街に依頼を回そうかと思っていたが、ベルンハルト殿に受けてもらえて助かった」
「フラン様、依頼の受注書と前金、そしてお買い上げして頂いた魔結晶と決済書類をお持ちしました」
 フランさんとベルンハルトさんの話を聞いていた受付嬢の人が、すでにサインをするだけの受注書と前金の入った革袋、そして買い取ったクズ魔結晶を入れたずた袋と、ベルンハルトさんの口座から代金を引き落とした決済書類を窓口のテーブルに置いていた。
「これは、仕事が早いな。前金の確認と決済書類を見させてもらう。ロルフ君はクズ魔結晶の方を確認してくれ。数は数えなくていいから、中身だけ確認してくれたまえ」
 ベルンハルトさんは、クズ魔結晶の入ったずた袋をこちらに差し出してきた。
 受け取ったずた袋を開き、中を確認すると血のように真っ赤に輝く小さな魔結晶が詰め込まれていた。
 このクズ魔結晶を使って再生スキルを成長させれば、また新しい力が解放されるかもしれない。
 ダンジョンの調査中なら人目もないし、ベルンハルトさんに時間をもらって、魔結晶の吸収をさせてもらおう。
「問題ないです」
「こちらも問題なしだ。では、受注書と決済書類にサインさせてもらおう」
 ベルンハルトさんが、サラサラと受注書と決済書類にサインを書いて、フランさんに差し出した。
「では、よろしく頼みます」
 フランさんたちと別れ、窓口を後にすると、ヴァネッサさんとエルサさんが待つ休憩室へ向かった。
「ダンジョン探索と調査ねぇ。まぁ、暇だしいいけど」
「あのダンジョンはロルフ君がほとんど探索しちゃってて、水没区画くらいしか探索してないところはないと思いますけど。リズィーはまだ食べるの? さっきソーセージ食べたよね?」
 先に食事を終えたのはリズィーだけで、二人は先に食事をせずに待っていてくれていた。
 エルサさんの膝の上に座っていたリズィーは、食事終えているにもかかわらず、お皿の上に並ぶソーセージを真剣に見つめてよだれを垂らしていた。
 リズィー、お腹がぽっこりと出てるし、いっぱい食べたと思うんだけど、成長期なのかなぁ。
「リズィー、これ食べていいよ。でも、これで終わり。水没区画は水かさが多くて中に入れなかった感じですけどね。正規の入口はそっちの方だった気もします」
 自分の皿からソーセージを一本フォークで刺して差し出す。
 尻尾を勢いよく振って喜んだリズィーは差し出されたソーセージに美味そうにかぶりついていた。
 ようやく満足したのか、エルサさんの膝の上で大人しくなったリズィーのお腹をヴァネッサさんがさすって笑っていた。
「リズィーちゃんは食いしん坊ね。でも、そのお腹はマズいからあとで運動しましょうね」
 たしかにあの調子でご飯を食べると、数か月後にはとても狼とはいえないような丸々太った生物になってしまいそうな気はする。
「探索にはリズィーも連れて行った方がいいですね。運動にもなるだろうし鼻も利くと思うんで」
「そうね。置いていくのも可哀想だし、運動はさせてあげないと」
 リズィーが食事に満足したところで、みんなで朝食をとりながら、探索の話を進めていった。
「ロルフちゃんやエルサちゃんの言った水没してるところは、わたしの水中呼吸の魔法で移動はできるから、最優先で調査する必要があるわね」
「ふむ、ロルフ君が調査したところは後回しにして、今日はその水没区画を中心に調査してみるか。もしかしたら、水没してる先に別の部屋もあるかもしれないしな。よし、食事を終えたら出発するか」
 調査の方針が決まったので、食事後にダンジョンに向け出発することになったが、その前にやっておきたいことがあった。
「すみません、ダンジョン調査前に武具屋によっていいですか? エルサさんの装備も新調したいし」
 色々と人の視線を集める装備になっているエルサさんなので、トラブル回避のためにも装備は新しくしておきたかった。
「装備の新調か。よろしい支度金も出すので、いいものを揃えておきたまえ。冒険者の命を守るのは金をかけて揃えた武具と薬だけだ」
 ベルンハルトさんはそう言うと、前金でもらった二五〇万ガルドの革袋を丸ごとこちらに差し出していた。
「二人分の支度金として支給させてもらう。魔結晶の件はこちらからの投資金だから気にしないでくれたまえ」
 待遇面ではかなり優遇することを約束してもらっていたが、支度金だけで一〇〇万ガルド以上を支給されるとは思ってなかった。
「あ、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます!」
 装備もお金があるなら、高品質の物に挑戦してみるのもありか。
 魔結晶によって再生スキルのレベルを上げれば、高品質も成功率があがるだろうし。
 廃棄間近の中古品を買い漁って、高品質化を目指すのがいいかも。
 急いで食事を食べながら、ベルンハルトさんから支給してもらった支度金の効率的な使い道を一生懸命に考えていた。