翌朝、目覚めると、昨日の朝と同じように頭の上に柔らかい物の感触と、胸の上に圧迫感を感じていた。
今日もエルサさんが、僕を抱き枕にして寝てるらしい。
嫌ではないんだけど、毎日こんな寝相をされると色々と困っちゃうんだよな。
僕のことを恋人だって言ってくれたけど、やっぱ先を焦ったらダメなんだと思う。
それは理解できるけど、こうもエルサさんが無防備だと……。
前日の朝の事を思い出しながら、薄っすらと眼を開けると、視線の先には僕の胸の上に寝そべってだらしない顔をして寝ているリズィーの顔が見えた。
胸の上に感じていた重さの正体はリズィーだったのか。
寝る前はベッドサイドで丸まってた気がしたけど、いつの間にベッドにもぐりこんでたんだろうか。
それにしてもリズィーは狼っぽくないくらい、油断した顔をして寝てるよな。
美味しい物を食べている夢を見ているのか、口元がモゴモゴと動いてて、よだれが服を濡らしていた。
このままだと、リズィーのよだれで服がびしょびしょになりそうだし、そろそろエルサさんも起こそうかな。
隣でリズィーと同じように寝息を立てているエルサさんの顔を見ていたら、急に声がかけられた。
「ロルフちゃんは意外と真面目な子なのね。エルサちゃんみたいな可愛くて無防備な子に手を出さないなんて。一緒のベッドに入ったら手を出してあげるのが、男としての責任の取り方だからね」
振り返ると、すでに起きていて一部始終を見ていたらしいヴァネッサさんが、ニヤニヤした顔をしているのが見えた。
「せ、責任なんですか!?」
責任と言われ驚いた僕は、胸の上で寝ていたリズィーを抱えて飛び起きていた。
「ええ、だって男の人と一緒に寝たことが他人に知られたら、そう思われるでしょ。そこで手を出さなかったら、色々と勘繰っちゃうから」
ということはエルサさんが一緒に寝ようと誘ってたのは、そういう意味もあったの!?
二日続けて普通に寝ちゃってたけど、まさかそんな意味があったなんて!
「そんなことがあるか。ヴァネッサ、ロルフ君にいかがわしいことを吹き込むんじゃない。紳士たる者は相手の気持ちを最大限に忖度して、自己の欲望を抑え込むことこそが大事なのだ」
ヴァネッサさんのベッドから這い出してきたベルンハルトさんだったが、整えられていた毛並みは服と一緒に乱れたままだった。
「ベルちゃんも昨日はケダモノだったのに……」
「んんっ! ロルフ君が勘違いするようなことを言うんじゃない。私はヴァネッサに弄ばれただけではないか」
「はいはい、そうです。そうです。わたしがベルちゃんを弄んでましたー。でも、さっきの話はいずれエルサちゃんも気にするからね。ちゃんとしてあげた方がいいわよ。わたしは何年も待たされてるから、こうなっちゃっただけだからね。さて、わたしたちはシャワーを浴びてくるから、その間にエルサちゃんたちを起こしておいてね」
「ヴァネッサ、私はシャワーを浴びないと言っているだろう。兎人族は毛並みが水で濡れるのを嫌うと知っているはずだ。やめたまえ」
「だめよー。そうやっていつも逃げようとする。商人は身だしなみ第一って常に自分が言ってるでしょ」
ヴァネッサさんは、ベッドから這い出してきたベルンハルトさんをぬいぐるみのように抱き上げると、貨物用に繋がる扉の奥へ消えた。
「ふあぁああっ! 何か騒がしかったけどどうかした?」
ヴァネッサさんたちの声で目が覚めたのか、エルサさんが寝ぼけた顔をして起き上がってきた。
「い、いやなんでも。リズィーが僕の上で寝てて、よだれが付いちゃっただけだから」
幸いエルサさんはさっきの話を聞いてなかったようだ。
ヴァネッサさんの言いたいことも分かるけど、ベルンハルトさんの言ってたことも大事にしないと彼女を傷付けちゃうかもしれないし、慎重に考えつつ、取るべき時がきたら責任を果たすしかない。
こちらの返答に首を傾げていたエルサさんだったが、リズィーを僕から受け取るとベッドから降りて身だしなみを整え始めていた。
シャワーから帰ってきたヴァネッサさんたちと入れ替わるように、交代でシャワーを浴びさせてもらい、さっぱりした気分で朝の受注ラッシュで沸く冒険者ギルドに来ていた。
「私とロルフ君はパーティー加入の手続きをしてくるから、ヴァネッサとエルサ君とリズィーは朝食を済ませておいてくれたまえ」
「どうせ、混んでるし、外で食べられるように持ち帰れる品を選んでおくわ。エルサちゃん、リズィー行くわよ」
「ロルフ君、何か食べたい物ある?」
「僕は何でも食べられるんで、エルサさんが選んでくれていいですよ」
「分かったわ。じゃあ、あたしが選ばせてもらうね」
行き交う冒険者たちにリズィーを踏まれないよう抱えたエルサさんが、ヴァネッサさんの後ろについて休憩室の方へ向かっていった。
「さぁ、私たちは登録窓口の方へ行こう」
「はい」
僕はベルンハルトさんに促され、登録窓口に向かうことにした。
「あら、ロルフ君――って、ベルンハルト様も一緒にどうされたんです? アルマーニ殿との商談は終わったとお聞きしてますが」
顔なじみの受付嬢の人が、隣にいるベルンハルトさんの姿を見て驚いた顔をしていた。
「実はこのロルフ君を我が『冒険商人』のパーティーに雇おうと思ってね。加入手続きをしてもらいたくて伺ったのだよ」
「ベルンハルトさんのパーティーにロルフ君がですか? えっと、ロルフ君はオーガ討伐こそ認められてますが、Fランク冒険者ですよ。ベルンハルトさんのパーティーは最高ランクのSランクですが?」
受付嬢の人もさすがにびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
「ああ、彼とは我がパーティーの荷物持ちとして雇わせてもらうと話はついている。彼と組んでいるエルサ君も同じくパーティーに加入してもらうが、そちらは下働きという契約をさせてもらっている。私とヴァネッサも最近は忙しくしててね。人手が欲しいと思っていたのだよ」
冒険者ギルドに来る前に、ベルンハルトさんたちと話し合って、僕たちは荷物持ちと下働きとしてパーティーに加入させてもらうことになっていた。
そうしておいた方が、僕たちの能力に気付く人が減ると思い、自分から提案させてもらっていたのだ。
ただ、ベルンハルトさんたちが難色を示し、待遇面はFランク冒険者とは思えないほどいい条件を提示してもらっていた。
「ロルフ君は納得してる?」
受付嬢の人はフィガロさんとの件を知っているため、ベルンハルトさんのパーティーへの加入を心配して確認をとってきていた。
「はい、憧れのベルンハルトさんのパーティーに入れてもらえるんで、喜んで受けさせてもらいました!」
僕の声で、朝の受注ラッシュによって起きていた喧騒が止み、束の間の静寂が訪れた。
「お、おい! ロルフのやつが『冒険商人』ベルンハルトさんのパーティーに入ったらしいぞ!」
「あれか、またあの使えない『再生』スキルを見込んだ勘違い採用か?」
「いや、どうやらただの荷物持ちらしいぞ」
「なんだよっ! 雑用か。だったら、あいつにお似合いじゃねえか。オーガ討伐もまぐれだろうしな」
「ベルンハルトさんも荷物持ちなら、オレの方が絶対に役に立つんだが、なんでロルフを選んだんだろうな」
静寂が冒険者たちの囁き合う声で破られると、視線がこちらに集中していた。
今日もエルサさんが、僕を抱き枕にして寝てるらしい。
嫌ではないんだけど、毎日こんな寝相をされると色々と困っちゃうんだよな。
僕のことを恋人だって言ってくれたけど、やっぱ先を焦ったらダメなんだと思う。
それは理解できるけど、こうもエルサさんが無防備だと……。
前日の朝の事を思い出しながら、薄っすらと眼を開けると、視線の先には僕の胸の上に寝そべってだらしない顔をして寝ているリズィーの顔が見えた。
胸の上に感じていた重さの正体はリズィーだったのか。
寝る前はベッドサイドで丸まってた気がしたけど、いつの間にベッドにもぐりこんでたんだろうか。
それにしてもリズィーは狼っぽくないくらい、油断した顔をして寝てるよな。
美味しい物を食べている夢を見ているのか、口元がモゴモゴと動いてて、よだれが服を濡らしていた。
このままだと、リズィーのよだれで服がびしょびしょになりそうだし、そろそろエルサさんも起こそうかな。
隣でリズィーと同じように寝息を立てているエルサさんの顔を見ていたら、急に声がかけられた。
「ロルフちゃんは意外と真面目な子なのね。エルサちゃんみたいな可愛くて無防備な子に手を出さないなんて。一緒のベッドに入ったら手を出してあげるのが、男としての責任の取り方だからね」
振り返ると、すでに起きていて一部始終を見ていたらしいヴァネッサさんが、ニヤニヤした顔をしているのが見えた。
「せ、責任なんですか!?」
責任と言われ驚いた僕は、胸の上で寝ていたリズィーを抱えて飛び起きていた。
「ええ、だって男の人と一緒に寝たことが他人に知られたら、そう思われるでしょ。そこで手を出さなかったら、色々と勘繰っちゃうから」
ということはエルサさんが一緒に寝ようと誘ってたのは、そういう意味もあったの!?
二日続けて普通に寝ちゃってたけど、まさかそんな意味があったなんて!
「そんなことがあるか。ヴァネッサ、ロルフ君にいかがわしいことを吹き込むんじゃない。紳士たる者は相手の気持ちを最大限に忖度して、自己の欲望を抑え込むことこそが大事なのだ」
ヴァネッサさんのベッドから這い出してきたベルンハルトさんだったが、整えられていた毛並みは服と一緒に乱れたままだった。
「ベルちゃんも昨日はケダモノだったのに……」
「んんっ! ロルフ君が勘違いするようなことを言うんじゃない。私はヴァネッサに弄ばれただけではないか」
「はいはい、そうです。そうです。わたしがベルちゃんを弄んでましたー。でも、さっきの話はいずれエルサちゃんも気にするからね。ちゃんとしてあげた方がいいわよ。わたしは何年も待たされてるから、こうなっちゃっただけだからね。さて、わたしたちはシャワーを浴びてくるから、その間にエルサちゃんたちを起こしておいてね」
「ヴァネッサ、私はシャワーを浴びないと言っているだろう。兎人族は毛並みが水で濡れるのを嫌うと知っているはずだ。やめたまえ」
「だめよー。そうやっていつも逃げようとする。商人は身だしなみ第一って常に自分が言ってるでしょ」
ヴァネッサさんは、ベッドから這い出してきたベルンハルトさんをぬいぐるみのように抱き上げると、貨物用に繋がる扉の奥へ消えた。
「ふあぁああっ! 何か騒がしかったけどどうかした?」
ヴァネッサさんたちの声で目が覚めたのか、エルサさんが寝ぼけた顔をして起き上がってきた。
「い、いやなんでも。リズィーが僕の上で寝てて、よだれが付いちゃっただけだから」
幸いエルサさんはさっきの話を聞いてなかったようだ。
ヴァネッサさんの言いたいことも分かるけど、ベルンハルトさんの言ってたことも大事にしないと彼女を傷付けちゃうかもしれないし、慎重に考えつつ、取るべき時がきたら責任を果たすしかない。
こちらの返答に首を傾げていたエルサさんだったが、リズィーを僕から受け取るとベッドから降りて身だしなみを整え始めていた。
シャワーから帰ってきたヴァネッサさんたちと入れ替わるように、交代でシャワーを浴びさせてもらい、さっぱりした気分で朝の受注ラッシュで沸く冒険者ギルドに来ていた。
「私とロルフ君はパーティー加入の手続きをしてくるから、ヴァネッサとエルサ君とリズィーは朝食を済ませておいてくれたまえ」
「どうせ、混んでるし、外で食べられるように持ち帰れる品を選んでおくわ。エルサちゃん、リズィー行くわよ」
「ロルフ君、何か食べたい物ある?」
「僕は何でも食べられるんで、エルサさんが選んでくれていいですよ」
「分かったわ。じゃあ、あたしが選ばせてもらうね」
行き交う冒険者たちにリズィーを踏まれないよう抱えたエルサさんが、ヴァネッサさんの後ろについて休憩室の方へ向かっていった。
「さぁ、私たちは登録窓口の方へ行こう」
「はい」
僕はベルンハルトさんに促され、登録窓口に向かうことにした。
「あら、ロルフ君――って、ベルンハルト様も一緒にどうされたんです? アルマーニ殿との商談は終わったとお聞きしてますが」
顔なじみの受付嬢の人が、隣にいるベルンハルトさんの姿を見て驚いた顔をしていた。
「実はこのロルフ君を我が『冒険商人』のパーティーに雇おうと思ってね。加入手続きをしてもらいたくて伺ったのだよ」
「ベルンハルトさんのパーティーにロルフ君がですか? えっと、ロルフ君はオーガ討伐こそ認められてますが、Fランク冒険者ですよ。ベルンハルトさんのパーティーは最高ランクのSランクですが?」
受付嬢の人もさすがにびっくりした顔をしてこちらを見ていた。
「ああ、彼とは我がパーティーの荷物持ちとして雇わせてもらうと話はついている。彼と組んでいるエルサ君も同じくパーティーに加入してもらうが、そちらは下働きという契約をさせてもらっている。私とヴァネッサも最近は忙しくしててね。人手が欲しいと思っていたのだよ」
冒険者ギルドに来る前に、ベルンハルトさんたちと話し合って、僕たちは荷物持ちと下働きとしてパーティーに加入させてもらうことになっていた。
そうしておいた方が、僕たちの能力に気付く人が減ると思い、自分から提案させてもらっていたのだ。
ただ、ベルンハルトさんたちが難色を示し、待遇面はFランク冒険者とは思えないほどいい条件を提示してもらっていた。
「ロルフ君は納得してる?」
受付嬢の人はフィガロさんとの件を知っているため、ベルンハルトさんのパーティーへの加入を心配して確認をとってきていた。
「はい、憧れのベルンハルトさんのパーティーに入れてもらえるんで、喜んで受けさせてもらいました!」
僕の声で、朝の受注ラッシュによって起きていた喧騒が止み、束の間の静寂が訪れた。
「お、おい! ロルフのやつが『冒険商人』ベルンハルトさんのパーティーに入ったらしいぞ!」
「あれか、またあの使えない『再生』スキルを見込んだ勘違い採用か?」
「いや、どうやらただの荷物持ちらしいぞ」
「なんだよっ! 雑用か。だったら、あいつにお似合いじゃねえか。オーガ討伐もまぐれだろうしな」
「ベルンハルトさんも荷物持ちなら、オレの方が絶対に役に立つんだが、なんでロルフを選んだんだろうな」
静寂が冒険者たちの囁き合う声で破られると、視線がこちらに集中していた。