「まさか、そんな能力を持つスキルだったとは……。物の品質を向上するだけでなく、壊れた物の再生までして、さらに成長して新たな力を得ていくとは。ロルフ君たちの持つ『再生』スキルの能力が知れ渡れば、国家間の戦争に発展するという話は現実化するだろうな」
「そうねぇ。ロルフちゃんとエルサちゃんの持つ力は、国家に富をもたらしてくれる力だからね。手荒い手段を講じても手に入れたいと思う国家も出てくると思うわね」
「ヴァネッサの言う通りだな。幸いにしてロルフ君が、自分の持つスキルのことを喋らずにいたので、世間はまだ『再生』スキルのことに気付いていない。だが、やたらと高品質な物を売却したり、廃棄品から新品の武具などを売り捌いていたら、能力に気付くものがいたかもしれない」
「やっぱり、ベルンハルトさんもそう思いますか?」
「ああ、ロルフ君みたいな若い冒険者が、ベテランたちがようやく手に入れてこられる高品質の物を何度も売りに来たりすれば、疑う人物も出てくると思う」
「まぁ、でもわたしたちのパーティーに加入したことを公にすれば、やたらと高品質の物を売り捌いても気にされなくなるわね。なにせ、世界中を股にかけて商売と冒険をする『冒険商人ベルンハルト』のパーティーだから、扱うものは高品質の高級品ばかりだしね」
 ベルンハルトさんたちは冒険者としても有名だけど、それ以上に冒険者でありながら商人ギルドにも属する商人でもあることが名前を有名にさせていた。
 主にダンジョンで見つかる魔法武具や古代遺物、高品質な品物を収集し、それらの品物を、商人ギルドを通じて貴族に売り捌き、財を築いたと聞いている。
 紅炎の散策(フレアウォーク)号に投じられている莫大なお金も、その財産の一部だと思われた。
「そのこともベルンハルトさんのパーティーに加入しようと思った一因です」
「いい判断だと思う。私のパーティーにいれば、君の能力を詮索する者は皆無だろうしね。だが、ロルフ君はそれでいいのか? この街での君の評価は今までのままになってしまうが?」
「僕にはエルサさんがいてくれるので、街の人たちの評価は気にしませんよ。それにベルンハルトさんのパーティーに加入したことで、周囲の人たちが勝手に評価を変えると思いますし」
 レアスキルを買われ、フィガロさんのパーティーに加入した際、周りの冒険者たちの評価は今とは全く違い、憧れの視線で見られていたのを思い出していた。
 その後の事を考えると、結局、他人の評価というのは環境によって変りやすいものでしかないと悟っている。
 けど、エルサさんはスキルの力だけでなく、僕自身を見てくれている存在だった。
 だから、彼女がいてくれる限り、僕は他の人から何を言われようが気にしないことにしたのだ。
「あら、二人はそういう関係だったの。まぁ、二人で一つのスキルっぽいし、そういう関係になっちゃってる方が色々と都合がいいかもしれないわねぇ」
 ヴァネッサさんが何か勘違いしたのか、ニヤニヤと笑いながら僕とエルサさんの顔を交互にみていた。
「不躾な質問で申し訳ないですけど、ベルンハルトさんとヴァネッサさんって、そのご結婚されてますか?」
 僕との仲をヴァネッサさんに聞かれ、赤い顔をしていたエルサさんが、突然ヴァネッサさんたちの関係を問い質していた。
「私とヴァネッサが、け、結婚しているかだって!? そのような事実はないな。彼女とはパートナーであり、それ以上の――」
 突然のエルサさんの質問に、初めて狼狽した顔を見せたベルンハルトさんは、ヴァネッサさんの両腕に捕まえられていた。
 ヴァネッサさんの膝の上にいたリズィーは、間に挟まれて潰されないようすぐに逃げ出してエルサさんの膝の上に逃げ込んでいく。
「ベルちゃんはわたしの旦那様でーす。ただ、本人が『仕事が一段落するまでは身を固めるつもりはない』とかキリッとした顔で言うから、パートナーでいることを了承してるだけよ。わたし的にはもう嫁になってるから、そのつもりで、ロルフちゃんもエルサちゃんもよろしくね」
「ヴァネッサ、その話は彼らの前でする話ではないだろう。私たちは仕事仲間だ。それ以上でもそれ以下でもないと――」
「ベルちゃんがわたしを無理やりパーティーに入れた時に、そういう話になってたでしょー。『私が君の能力を最大限に引き出してみる』って言ったし」
「たしかにそう言ったが、それは言葉通りでヴァネッサの持つ魔法の才能を引き出すと――」
 何か二人の間に齟齬があるようだけど、ベルンハルトさんも嫌がっているようには見えないので、やっぱり二人は結婚こそしてないけど恋人関係なんだろうなぁ。
 ヴァネッサさんの腕の中でもがいているベルンハルトさんを見て、エルサさんも手を口に当てて笑いを堪えているのが見えた。
「分かりました。間を取ってお二人は恋人同士ということにしときますね」
「エルサちゃんもロルフちゃんと恋人同士ってことにしとくわよ」
「はい、そうしておいてください」
 ヴァネッサさんから、エルサさんと恋人同士と言われて、自分の顔が火照っていく。
 自分ではそう思っていたけど、他の人からそう言われるのを聞くと照れてしまう自分がいた。
「恋人同士なら、ベッドは一つでいいわね。今日はもう遅いから、そっちのベッドはエルサちゃんたちが使っていいわよ。わたしはこっちでベルちゃんと添い寝するから」
「ヴァネッサ、それはしないという約束だっただろう――」
「はいはい、今日からは無理ですー。大人しく一緒に寝ましょうね」
 ヴァネッサさんが、僕たちに片方のベッドを使うように視線を送ると、自分のベッドにベルンハルトさんを抱いたまま潜り込んでいた。
「一緒のベッドですか……」
 ヴァネッサさんに一緒にベッドを使うようにと言われたことで、自分の脳裏に今朝のことが思い出されていた。
 エルサさんってわりと寝相が悪いんだよな。抱き付かれちゃうし……。
 色々と困ったことになっちゃうけども……この場合仕方ないか。
「ロルフ君、今日も一緒のベッドだね」
 にっこりと笑うエルサさんによって、抵抗する気は一切なくなり、今日の寝床としてベルンハルトさんのベッドを借りることにした。