ベルンハルトさんたちが、寝床にしている紅炎の散策(フレアウォーク)号の中に入る。
 広い馬車の中は、豪華なベッドと、テーブルの前にソファが置かれ、奥の方には台所が設置されていた。
「すごいですね。高級宿みたいだ……」
「馬車の中よね?」
 エルサさんと二人、紅炎の散策(フレアウォーク)号の中で立ち尽くしていた。
「ロルフ君、エルサ君、ソファに腰をかけたまえ。早速だが商談を始めよう」
「リズィーちゃんはこっちねー」
 先にソファに腰をかけたベルンハルトさんたちが、僕たちにソファへ座るように促していた。
 促されるまま、ソファに腰を掛ける。
「さて、ここでなら人の眼も耳もないから、ロルフ君たちと大事な話ができる」
 眼帯を付けたベルンハルトさんの赤い眼がキラリと光ったような気がした。
「伝説品質の薬草の群生地の件ですね」
「いや、それはどうでもいい。君ともっと大事な商談をするための話題みたいな物だからな」
「もっと大事な商談ですか?」
「ああ、もっと大事な商談だ。これからする商談は君と、君の彼女の今後を左右する大事な商談になると思う」
 真剣な表情をしたベルンハルトさんの視線に晒され、急に居心地の悪さを感じ始めた。
 薬草の群生地以外の大事な話で、今後を左右するとか……いったい何の話だろうか?
 僕の再生スキルが使えるようになった件は、エルサさん以外誰も知らないだろうし。
「今後を左右する大事な商談ですか……」
「私は回りくどい商談は嫌いなので、本題に入らせてもらうが、君が持つ『再生』スキルは、今現在使えるようになっているのだろう?」
「な、なんの話ですか? 僕の『再生』スキルは発動しないゴミスキルですよ!?」
「君の持つ『再生』スキルにまつわる話は、フィガロ氏から詳しく聞かせてもらった。所持者が誰一人いない極めて珍しいスキルだという認識はしている。そして、そのスキルがただの一度も発動せずにいたというのも」
「そうです。だから、僕はフィガロさんのパーティーから追放されました」
 ベルンハルトさんの話で、一年前、フィガロさんのパーティーから追放された光景が脳裏に浮かんで、心臓が鼓動を早めた。
「そんな君は、この一年ずっと一人で冒険者をして生活にも困っていたと聞いた。そんな君が昨日急にオークを一人で討伐したり、伝説品質の薬草を大量に所持したりしているのは、集めた噂話からして、何かしらの変化があったとしか思えない」
 淡々と喋るベルンハルトさんによって、隠していたことが徐々に暴かれていく感覚に晒されていた。
「集めた噂から推測すると、ロルフ君の周囲の変化といえば、隣にいるエルサ君の存在くらいしかない。アルマーニ殿に聞いたのだが、オーガ討伐の際はエルサ君と一緒にいたという話だ。そこから導き出した話は、ロルフ君の『再生』スキルを発動させる鍵が、エルサ君だったという気がしてならない。ここまでは間違ってないだろうか?」
 ベルンハルトさんは、こちらに向け、確認を取るような視線を投げかけた。
 ベルンハルトさんの立てた推測は、ほとんど真実を突き当ててる。
 やばい、誤魔化さないと……。
 隣に座っているエルサさんも、ベルンハルトさんの推測を聞いて、今の自分と同じように焦ったような顔をしている。
「さ、さきほどから言ってるように、ぼ、僕のスキルは――」
「まぁ、いい。こちらも最後まで話してから聞くべきだった。『再生』スキルの能力についてだが、これは私にも知識がなく明確な能力はわかりかねる。ただ、物の品質を高める効果を持つというスキル能力を持っているのではと思っているのだ。君が伝説品質の薬草が群生しているなどと、ありえないことを言った時、その考えに至った。ロルフ君の持つ『再生』スキルで、薬草を伝説品質まで高めたのではないかとね」
「ベルちゃんの言ってることが本当なら、とんでもないスキルになるわねって言ってるんだけどね。ベルちゃんはそう思ってるみたいよ。わたしは難しいことは分からないけど、ベルちゃんの推測が外れたことはないから真実だと思ってるけど」
 膝に抱えたリズィーを撫でていたヴァネッサさんは、ベルンハルトさんのことをとても信頼しているようであった。
 再生スキルの持つ能力も大まかに把握されてる感じだ。
 普通ならそんなスキルが存在するなんて、一笑にふす話なはずなのに。
 目の前のベルンハルトさんは、冗談を言ってるような表情ではなく、真剣そのものの顔をしていた。
「ロルフ君……」
 ベルンハルトさんによって、暴かれそうになっている再生スキルの力のことを心配したエルサさんが声をかけてきた。
 言い逃れしようにも、目の前のベルンハルトさんに対し、何を言っても真実を見抜かれてしまいそうな気がする。
 再生スキルの件は、エルサさんにも関わってくる話だし、できれば表には出したくない。
 こちらの戸惑いを見てとったベルンハルトさんは、それまでの真剣な表情を緩めていた。
「そこで、ロルフ君と商談がしたいという話になる。話は簡単だ。私のパーティーに君たち二人に加入してもらいたいと思っている。もちろん、稼いだ利益はパーティーメンバーで折半することにしているし、待遇面では最上級の物を用意させてもらうつもりだ。支度金も十分に用意させてもらう」
「パーティー加入ですか?」
 ベルンハルトさんから提示された商談内容が、あまりに突飛な提案だったため、頭の理解が追いつかなくなっていた。
 僕とエルサさんが、冒険商人として有名なベルンハルトさんのパーティーに入って欲しいって?
 そんなうまい話が――。
 脳裏には、フィガロさんに『再生』スキルの力を期待され、パーティー加入したあと追放された苦い経験の記憶がよぎっていた。
 ベルンハルトさんたちも、再生スキルに期待して僕を加入させようと思ってるんだろうし、きっと期待外れだったらパーティーから追い出されちゃうんだろうなぁ。
「せっかくですが――」
「ロルフ君! ベルンハルトさんたちってすごい冒険者なんでしょ! そんな人たちと一緒にパーティー組めるなんてすごくない! これってすごい幸運だと思うんだけど!」
 断ろうとした矢先、エルサさんがベルンハルトさんの提案を聞いて喜んだ顔をしているのが見えた。