『黄金の獅子』追放から瞬く間に一年が過ぎた。
 16歳になった僕は、今日も憧れの職業であった冒険者として依頼に励んでいる。
「よぉ、ロルフ。今日もゴミ漁りご苦労さん」
 今日は依頼を受けて街の清掃活動中だ。
 侮蔑を含んだ男の言葉を無視して、無言で道路のゴミを拾っていく。
「これ、やるよ。遠慮せずに受け取れ。オレたちはこれから冒険に行ってもっとすごいお宝を手にするからな。ははっ!」
 通り過ぎていく少し年上の冒険者が、目の前に価値のほとんどないクズの魔結晶を捨てていた。
 淡く光を発した小さな魔結晶が目の前に転がってくる。
「可哀想なことするなよ。いくらあいつが使えないスキル持ちだからって、ゴミ同然の魔結晶を捨てるのは酷くねえか?」
「だってよ。『再生』とか意味わかんねーポンコツスキルを与えられた、『ゴミ拾い』の二つ名を持つロルフだぜ」
「だから、そういうことを大きな声で言うなって――」
「ガタイも細くて、魔法の才もなく、スキルすら使えないで、冒険者をやってるやつだから言われても仕方ないだろ。とっとと廃業すればいいのにな」
「確かにそうだが、言葉を……」
「何が楽しくて日がな一日ゴミ漁りしてるのか教えて欲しい。オレだったら恥ずかしくてすでに死んでるぜ」
 連れ立って歩いていた冒険者たちが、僕を馬鹿にして目の前から去っていった。
「……そんなこと、僕が一番教えて欲しいに決まっているだろ……」
 自嘲気味に呟きながらも、目の前に転がったクズの魔結晶を拾う。
 今の僕は幼い時から憧れていた両親と同じ冒険者をしている。
 でも、冒険者となった僕がやっていることは、子供でもできるゴミ拾いでしかない。
 こんなはずじゃなかった……。
 憧れの冒険者となって、信頼できる仲間と色んな街に行ったり、魔物を倒したり、誰も見たこともない財宝を探していたはずなのに……。
 なんで、僕に与えられたスキルは発動しない『再生』なんてスキルだったんだよ。
 剣の才能を与えてくれる、『剣の極み』なんてなくてもいい。
 魔法の才能を与えてくれる、『大魔導』なんて超レアなスキルが欲しいなんて望んだことはない。
 ただ、普通の一般的なスキルがもらえれば、良かったのに……。
 神様が僕に与えた『再生』というスキルは、神官すらもその存在を知らない全く未知のスキル。
 しかも、一度も発動しない謎のスキルだ。
「はぁ……このスキルは発動すらしてくれないし……こんなんじゃ、いつまで経っても借金を返せないし、仲間もみつからない」
 ゴミ拾いで薄汚れた自分の手を見て、与えられたスキルの使えなさにため息を吐いた。
 一年前、『黄金の獅子』から追放された一件で、僕の持つ『再生』スキルは、発動しないただのゴミスキルだとの噂が一気に広がった。
 噂が街中に広まると、無能者の烙印を押された僕をパーティーに入れてくれるところは皆無だった。
 おかげで能力的にも秀でた物がない、ぼっち冒険者の僕がやれるのは、最低ランクの依頼である街の清掃活動だけなのだ。
 この依頼は、冒険者ギルドが怪我や歳をとり、生活に困窮した冒険者への救済措置に近い。
 はっきりいって、こんな依頼は普通の健康な冒険者は誰も受けないのである。
 そんな依頼を、ぼっち冒険者で魔法の才もない僕は生活の糧を得るため受けていた。
 両親は依頼中に行方不明、育ててくれた祖母も先ごろ病気で他界し、僕には住む家も財産もなく借金しか残っていないどん底生活。
 まさに底辺冒険者と言われても、否定すべき言葉を持ち合わせてない状況だった。
「僕だって……僕だって……スキルが使えたら……こんなことしてない」
 借金返済に喘ぎ、皆に馬鹿にされ最底辺の生活をしていることに、満足をしているわけではなかった。
 スキルさえ、スキルさえ普通だったら……。
 こんなみじめな生活を送らないで済んだのに。
 神から与えられたスキルが使えず、自分を卑下するようになり、人と目が合わせられなくなって、いつの間にか下を向いて生活することが身についてしまっていた。
「はぁ……とはいえ、発動しないスキルなんてほんとゴミと同じだよな……はぁ……」
 解決の糸口すら見出せない生活にため息を吐きながら、今日の糧を得るためゴミ拾いを再開した。