「棚ぼたとはどういう意味でしょうか……。あのオーガは僕が倒しましたけど」
フィガロさんの顔に、『ロルフの癖にオーガなんか倒せるわけがない』と言いたげな表情が浮かんでいた。
「おかしいねぇ。徴税官たちを護衛していた冒険者たちは、自分たちがオーガを退治したと言っているんだが」
フィガロさんは休憩室にいる冒険者たちに聞こえるくらい、わざと大きい声で喋っていた。
彼の一言で、ざわついていた休憩室の冒険者たちの声が止む。
「フィガロさんの言う通りです。オレらは徴税官たちの荷馬車を守って戦い、オーガの率いるゴブリン軍団になんとか勝利しましたが、徴税官たちは逃げ散ってしまい、荷馬車は破壊されてしまいました。すぐにフィガロさんに連絡しないといけないと思い、素材は放置してきたんです。それをロルフがちょろまかしたに決まってる!」
フィガロさんの声に誘われるように、身体中に包帯を巻いている冒険者たちが、二階から降りてくるのが見えた。
「そんなわけないわ! あんたたちが暇つぶしにゴブリン狩りを始めて、急にオーガに襲われて護衛もせずに逃げ出したのを見てたんだからね!」
エルサさんの話だと、彼らが囮のゴブリンに引っ掛かってオーガに襲われた冒険者らしい。
あの人たちって、たしかフィガロさんのパーティーに属してる人たちだったはず。
嘘だと指摘された冒険者たちは、エルサさんの顔を見ると驚いて固まってしまった。
「お嬢さん、言いがかりはよしてくれ。彼らはわたしが率いる『黄金の獅子』に属する冒険者なのだよ。たかがオーガごときに急襲されたくらいで、護衛対象を捨てて逃げ出すなんてことをするわけがないだろう」
フィガロさんは、エルサさんの指摘を、自慢のサラサラの金髪を弄りながら、呆れた顔で聞き流していく。
そんなフィガロさんの背後で、当事者の冒険者たちの顔色がドンドンと蒼白に染まっていくのが見えていた。
あー、やっぱり徴税官たちを護衛せずに逃げたんだ。
それをフィガロさんには倒したと報告してたということか。
真実は明白なので、これ以上言いがかりをつけられないよう、分かりやすくフィガロさんに事情を伝えることにした。
「フィガロさん、お仲間の方たちがどう報告されているのかは知りませんが、森から現れたオーガとゴブリンたちは僕が倒しました。そのことはエルサさんが見てます。それに、お仲間さんたちは徴税官の護衛をほっぽり出して逃げ出したと聞いてますよ。もう一度、彼らに詳しくお話を聞いた方がいいのではないですか?」
「ロルフ君、君がわたしに指図できるような立場だというのかね?」
苛立ちを含んだフィガロさんの視線に曝される。
「指図などという大仰なことではなく、事実の再確認をされた方がいいと言っただけです」
苛立つフィガロさんの視線を受けても、いつものように下を向かず、真っすぐに見つめ返していた。
しばらく無言のにらみ合いが続いたが、やがてフィガロさんの方が先に視線を外すと、仲間の冒険者たちに向き直っていた。
「お前ら、わたしに嘘を報告していないだろうな?」
フィガロさんから再度問われた冒険者たちは目が泳ぎ、顔色がドンドンと悪くなる。
当事者の冒険者たちが返答に窮してソワソワとしていると、ギルドの入口から誰かが駆け込んできた。
「ふぅ、ふぅ、ロルフ君、エルサさん遅れて申し訳ない。報酬をもってきましたぞ」
駆け込んできたのは、屋敷に荷馬車を置きに行っていたアルマーニさんだった。
「逃げ出した冒険者たちのせいで散々な目に遭いましたが、君が迅速にオーガたちを討伐してくれたおかげで、ご領主様へ納められた税を積んだ荷馬車を無事に回収できた。これは私からの礼だ。受け取ってくれ」
走ってきたため、肩で息をしているアルマーニさんが、散々嘘を吐いていた冒険者たちの悪事を暴いていた。
「アルマーニ、その言葉に嘘偽りはないのか?」
「おや坊ちゃま? ええ、間違いありません。あっ! お前ら護衛を放棄した冒険者ども!」
その瞬間、当事者の冒険者たちは、大怪我をしているはずの包帯だらけの身体で、脱兎のごとく入口から駆け去っていくのが見えた。
仲間の冒険者たちの逃走する姿を見たフィガロさんの額に、青い筋が走る。
「あいつら、わたしを騙していたのか!」
「坊ちゃま、父上からあれほど取り巻きに置く者を選べと言われておったではありませんか。次代の当主なのですから、そろそろ冒険者ごっこなど卒業されて、領主としての――」
「うるさいぞ、アルマーニ! わたしは帰る! ロルフ君、君が背負っている借金の清算は早めに頼むよ!」
仲間だった冒険者に騙されていたフィガロさんは、顔を真っ赤にすると、怒って出て行ってしまった。
「ロルフ君、何やら坊ちゃまの道楽仲間が迷惑をかけた様子。すまなかったね」
「いえ、アルマーニさんのおかげで僕にかけられた疑惑は晴れたので助かりました」
「役に立てたのならよかった。ああ、バタバタして忘れそうだったが、報酬は受け取ってくれたまえ」
アルマーニさんが差し出した革袋を受け取ると、彼はフィガロさんの後を追って、冒険者ギルドから出て行った。
ん? 報酬を入れた革袋に何か紙が差し込まれてるぞ。
受け取った革袋の中にある紙を取り出して、書かれた文字を読んでいく。
書かれた内容は、二人で泊まる宿の部屋を用意してくれたとのことだ。
今からエルサさんの泊まる場所を探すつもりだったけど、彼が用意してくれてるなら、好意に甘えて泊まらせてもらうか。
さすがに僕がいつも使ってる安宿に、エルサさんを泊めるわけにもいかないし、今日はいっぱい稼げたから宿賃の心配をしないでもいいしね。
「エルサさん、日も暮れたし今日はもう宿で休みましょう」
「え? あ、うん」
用意してくれた宿への地図が書かれたアルマーニさんの手紙をポケットにしまうと、エルサさんの手を引き、再びざわつき始めた冒険者ギルドを出た。
フィガロさんの顔に、『ロルフの癖にオーガなんか倒せるわけがない』と言いたげな表情が浮かんでいた。
「おかしいねぇ。徴税官たちを護衛していた冒険者たちは、自分たちがオーガを退治したと言っているんだが」
フィガロさんは休憩室にいる冒険者たちに聞こえるくらい、わざと大きい声で喋っていた。
彼の一言で、ざわついていた休憩室の冒険者たちの声が止む。
「フィガロさんの言う通りです。オレらは徴税官たちの荷馬車を守って戦い、オーガの率いるゴブリン軍団になんとか勝利しましたが、徴税官たちは逃げ散ってしまい、荷馬車は破壊されてしまいました。すぐにフィガロさんに連絡しないといけないと思い、素材は放置してきたんです。それをロルフがちょろまかしたに決まってる!」
フィガロさんの声に誘われるように、身体中に包帯を巻いている冒険者たちが、二階から降りてくるのが見えた。
「そんなわけないわ! あんたたちが暇つぶしにゴブリン狩りを始めて、急にオーガに襲われて護衛もせずに逃げ出したのを見てたんだからね!」
エルサさんの話だと、彼らが囮のゴブリンに引っ掛かってオーガに襲われた冒険者らしい。
あの人たちって、たしかフィガロさんのパーティーに属してる人たちだったはず。
嘘だと指摘された冒険者たちは、エルサさんの顔を見ると驚いて固まってしまった。
「お嬢さん、言いがかりはよしてくれ。彼らはわたしが率いる『黄金の獅子』に属する冒険者なのだよ。たかがオーガごときに急襲されたくらいで、護衛対象を捨てて逃げ出すなんてことをするわけがないだろう」
フィガロさんは、エルサさんの指摘を、自慢のサラサラの金髪を弄りながら、呆れた顔で聞き流していく。
そんなフィガロさんの背後で、当事者の冒険者たちの顔色がドンドンと蒼白に染まっていくのが見えていた。
あー、やっぱり徴税官たちを護衛せずに逃げたんだ。
それをフィガロさんには倒したと報告してたということか。
真実は明白なので、これ以上言いがかりをつけられないよう、分かりやすくフィガロさんに事情を伝えることにした。
「フィガロさん、お仲間の方たちがどう報告されているのかは知りませんが、森から現れたオーガとゴブリンたちは僕が倒しました。そのことはエルサさんが見てます。それに、お仲間さんたちは徴税官の護衛をほっぽり出して逃げ出したと聞いてますよ。もう一度、彼らに詳しくお話を聞いた方がいいのではないですか?」
「ロルフ君、君がわたしに指図できるような立場だというのかね?」
苛立ちを含んだフィガロさんの視線に曝される。
「指図などという大仰なことではなく、事実の再確認をされた方がいいと言っただけです」
苛立つフィガロさんの視線を受けても、いつものように下を向かず、真っすぐに見つめ返していた。
しばらく無言のにらみ合いが続いたが、やがてフィガロさんの方が先に視線を外すと、仲間の冒険者たちに向き直っていた。
「お前ら、わたしに嘘を報告していないだろうな?」
フィガロさんから再度問われた冒険者たちは目が泳ぎ、顔色がドンドンと悪くなる。
当事者の冒険者たちが返答に窮してソワソワとしていると、ギルドの入口から誰かが駆け込んできた。
「ふぅ、ふぅ、ロルフ君、エルサさん遅れて申し訳ない。報酬をもってきましたぞ」
駆け込んできたのは、屋敷に荷馬車を置きに行っていたアルマーニさんだった。
「逃げ出した冒険者たちのせいで散々な目に遭いましたが、君が迅速にオーガたちを討伐してくれたおかげで、ご領主様へ納められた税を積んだ荷馬車を無事に回収できた。これは私からの礼だ。受け取ってくれ」
走ってきたため、肩で息をしているアルマーニさんが、散々嘘を吐いていた冒険者たちの悪事を暴いていた。
「アルマーニ、その言葉に嘘偽りはないのか?」
「おや坊ちゃま? ええ、間違いありません。あっ! お前ら護衛を放棄した冒険者ども!」
その瞬間、当事者の冒険者たちは、大怪我をしているはずの包帯だらけの身体で、脱兎のごとく入口から駆け去っていくのが見えた。
仲間の冒険者たちの逃走する姿を見たフィガロさんの額に、青い筋が走る。
「あいつら、わたしを騙していたのか!」
「坊ちゃま、父上からあれほど取り巻きに置く者を選べと言われておったではありませんか。次代の当主なのですから、そろそろ冒険者ごっこなど卒業されて、領主としての――」
「うるさいぞ、アルマーニ! わたしは帰る! ロルフ君、君が背負っている借金の清算は早めに頼むよ!」
仲間だった冒険者に騙されていたフィガロさんは、顔を真っ赤にすると、怒って出て行ってしまった。
「ロルフ君、何やら坊ちゃまの道楽仲間が迷惑をかけた様子。すまなかったね」
「いえ、アルマーニさんのおかげで僕にかけられた疑惑は晴れたので助かりました」
「役に立てたのならよかった。ああ、バタバタして忘れそうだったが、報酬は受け取ってくれたまえ」
アルマーニさんが差し出した革袋を受け取ると、彼はフィガロさんの後を追って、冒険者ギルドから出て行った。
ん? 報酬を入れた革袋に何か紙が差し込まれてるぞ。
受け取った革袋の中にある紙を取り出して、書かれた文字を読んでいく。
書かれた内容は、二人で泊まる宿の部屋を用意してくれたとのことだ。
今からエルサさんの泊まる場所を探すつもりだったけど、彼が用意してくれてるなら、好意に甘えて泊まらせてもらうか。
さすがに僕がいつも使ってる安宿に、エルサさんを泊めるわけにもいかないし、今日はいっぱい稼げたから宿賃の心配をしないでもいいしね。
「エルサさん、日も暮れたし今日はもう宿で休みましょう」
「え? あ、うん」
用意してくれた宿への地図が書かれたアルマーニさんの手紙をポケットにしまうと、エルサさんの手を引き、再びざわつき始めた冒険者ギルドを出た。