蒼白い雷が迸る暗雲の下に広がる崩壊した大地。
 そこには、血塗れで刀を握りながら横たわる黒髪の男性と、黒髪の男性に膝枕をする白髪の青年の姿がある。

「なぜだ?」

 白髪の青年の問いに対して、黒髪の青年は僅かに目を開けるだけ。
 黒髪の男性は右腕に左脚が欠損し、千切れた手足だけではない箇所からも大量出血をしている。

「死ぬ前に答えてくれ。なぜ……俺を殺さなかった?」
「……」
「神と互角に戦ったお前なら、俺など簡単に殺せたはずなのに……なぜ、殺さなかった?」

 大怪我を負っているにも関わらず、全く苦しまないことから、黒髪の男性は絶命寸前な事が伺える。本来であれば喋ることはおろか、意識を保つことさえ困難なはずだが……

「め……し」
「めし?」
「……げほっ、同じ飯を……食っただろ」

 黒髪の男性が吐血しながらも、か細く発した言葉。
 その言葉を発した直後、雨とは異なる雫が黒髪の男性の顔を濡らす。

「家族を……斬れるわけ……」
「そ、そんなことで」

 2人はかつて同じ釜の飯を食べた仲間なのだろう。
 何故仲間なのに殺し合いをする必要があったのかは不明だが、殺し殺されなければいけない、何らかの理由があったのだろう。

「ライル? お前も……時間がないんだろう?」
「……」

 残された時間が少ないとは、どういう意味なのか。
 白髪の青年には目立った外傷などは見受けられないが、答えないということは、黒髪の男性が言ったとおり、残された時間が少ないのかもしれない。

「ライル……最期に1ついいか?」
「ああ、なんだ?」

 黒髪の男性の口は動いているが、二人が見える距離からでは聞き取る事ができない。しかし、男性の言葉を聞いたであろう白髪の青年は、苦虫を嚙み潰したような険しい表情で、これまで以上の大粒の涙を流し続ける。

「わかった。お前の思いは、俺が必ず叶える」

 黒髪の男性はライルの表情を、目に焼き付けるように見つめ、静かに目を閉じると……その手から握っていた刀が地面に転がる落ちた。


 このとき、黒髪の男性は何を頼んだのか。
 そして、白髪の青年は黒髪の男性の思いを叶えることができたのか。
 その答えは、悠久の時を経て解明されることとなる。