俺とアオさんは、コンビニのイートインスペースに並んで腰かけた。

 大丈夫かな。って思ったのは、全面ガラス張りのお店なんだ。外から丸見えだから、クロが見たらどう思うか。

 いや、クロなら大丈夫か。従兄はそんなことに目くじらを立てたりしないし、まず誤解すらしないだろう。俺と違ってちゃんと話を聞いてくれる、出来た従兄なんだ。

「ソラくん、ソラくん」

 アオさんが今さっき買った袋をゴソゴソし、ペットボトルを二本取り出した。

「どっちがいい?」

 ペットボトルを握った両手を、笑顔と共に差し向けた。右手は緑茶、左手は紅茶だった。

 おごりだったので、まず俺は頭を下げた。その後にレディファーストと、アオさんから選んで貰うように言った。

「やっぱ、クロくんの弟だけあって。紳士なんだ」

 アオさんは小さく笑い、紅茶のペットボトルを俺に渡した。

 何となく、予想はついていた。彼女は地元が京都だからか、緑茶の方が好きだ。そして、こっちは紅茶派だ。これを分かっていてやっているんだから、したたかな人だなって思う。

「それじゃ……」

 アオさんは再び、膝の上に置いたビニール袋をゴソゴソやった。

「これは?」

 次の二択は難問だった。アオさんの手のひらには、右左それぞれ違うケーキが乗せられていた。俺は甘いものが大好きなのを隠してはいるが、アオさんにすらバレていたとは。

 って、そんなのは今はどうでもいい。問題は、この二択。左手のモンブランか、右手のショートケーキ。

 モンブランはフランス生まれのケーキで、白い山という意味らしい。原産国では栗は乗せないらしいので、日本人で良かったと俺は思っている。

 ショートケーキはイギリス生まれのケーキで、語源の説は一杯ある。短い時間で作れるとか、日持ちしないからとか。原産国ではビスケット生地らしいので、本当に俺は日本人で良かった。

 それはともかく、いま俺はイギリスかフランス。ドーバー海峡を挟んで、最大の二択を強いられていた。これぞ史上最大の作戦。っていったら、フランスになってしまうな。モンブランに上陸って感じに。

「さぁ、どっち?」

 アオさんは愉快な声を出し、満面の笑みで言った。その様子を見て、俺が選べないのを分かってて言っているんだと確信した。

 でも、こういう場合。一つだけ裏技があるのを、俺は知っている。

「……は」

 絞りだした声が、裏返っているのが分かった。ケーキを目の前にして、食欲が暴走してる。

「半分こ、しませんか?」

「そう言うと思った」

 アオさんは満面の笑みで、二つをカウンターの上に置いた。慣れた手つきで包装を剥がし、開けたフタの上に半分にしたケーキを置いた。

「イチゴと栗はどうする?」

 そこは盲点だった。どっちも物理的には半分に出来るけれど、獲物がプラスチックのフォークだもんな。栗は固くてやりづらいし、イチゴは潰れる危険がやばい。

「どっちも、あげてもいいけど」

「それはダメです!」

 彼女の提案をばっさり切るように却下した。ただでさえ奢りなのに、そこまで気を遣わせてしまったら、剣道未経験者およそ千段のクロが黙っちゃいない。

 アオさんも二択で悩んだ結果、イチゴを選んでくれた。イチゴが好物、って言ったけれど。本当はどこかで俺が栗が良かったっていうのが、バレていたのかもしれない。

 ケーキは半分こに出来るけど、それが出来ないものもある。

 半分のモンブランを口にしながら、俺はそんなことを考えた。世の中って割り切れないものが沢山あって、こないだまでの自分がそうだった。

 俺はアオさんの方を盗み見る。ショートケーキを美味しそうに口にしていた。本当は和菓子のが好きだって、聞いたことはある。でもやっぱり女子だし、甘いものは大好きなんだろう。これはこれ、それはそれ。割り切れないものの一つなのかもしれない。

 今のところ、俺は前世を一応は割り切るのは出来ている。でもアオさんは、知ったらどうなるんだろう。そこが想像つかないから、クロも二の足を踏んでいるんじゃないかって思う。

 そう思うと確かにもどかしい、何か俺に出来ないのだろうか。

「そういえばソラくん」

 アオさんの声に顔を上げる。彼女は面白いものを見つけたような表情をしていた。

「こないだの子って、結局どういう関係なの?」

 どこかで見た表情だと思ったけど、あの時と同じ顔か。こないだっていうのは、初めて天をクロに紹介した時だ。

「天ですか、あいつは……」

「そらって名前なんや! えっらい偶然!」

 せやね、って関西弁が伝染しそうになった。