起きたら、当たり前のように頭が痛かった。朝からこれがあるって場合は、今日が頭痛のピークなんだ。これを境に少しづつ、二日くらいかけて治まっていくのが恒例だ。

 痛みを共有してるってなると、天も毎日これを味わっているんだろう。これだけなら、まだいい方か。稀に来る下腹部の痛みの日が重なると、地獄と言っても過言じゃない。

 魔法の名前は、共痛覚だとか。字面で見ると、共産党みたいだな。きのみさんは面白がって「痛じ合っている」とか言ってたけれどさ。天が怪我でもしちゃったら、どうなるんだっていうんだ。

 キスしか、無いのか。

 俺は寝ぼけ眼で洗面台に立ち、自分の歯ブラシに歯磨き粉を塗り付けた。

 悪い魔法使いが天の前世に魔法を掛けたように、きのみさんも前世の俺に魔法を掛けている。

 名前とかはよく覚えてないけれど、共痛覚が一日だけ消え失せる効果があるのだとか。昨日、天が自分をビンタしたのも、その効果が現れているのかという実験だったらしい。だからと言って、もうちょっとやり方はあっただろうに。

 そして、その魔法の発動条件はキスだ。

 他にも血を吸うだとか、相手の爪を煎じて飲むとか。別の方法もあったらしいけれど、前世の俺が選んだのはキスだったらしい。確かに血とか、爪とか趣味が悪い。前世のきのみさんは、どういう魔法使いだったっていうんだ。

 歯磨き粉塗れの口をゆすいで、うがいすると目が覚めた気がした。

 共痛覚か。普通なら怪我しないように、気を付けていれば良いだけ。だけれど厄介なことに、天は偏頭痛持ちだった。週に何度か、頭が痛くなる時がある。その度に俺も苦しそうにしているのを見て、前世の嫁なんじゃないかと思ったらしい。こっちの頭痛の日を正確に覚えていたのって、そういう意味だったのか。

 月に一度の腹痛もそうなのか、と尋ねてみたけど。何故かそれだけは、はぐらかされてしまった。偏頭痛ならぬ、偏腹痛も持っているのかもしれない。

 解決する方法は無いのか聞いてみたけれど、ハッキリと無いって言われた。だから、前世の天は自ら命を絶ったという。

「それと同じように、あたしが死ねば解決するかも」って天が呟いた。

 トサカに来た俺が手を出しそうなったのを、クロが止めてくれた。従兄は大人だ。俺はガキだから、感情に振り回される。あの時、天を殴っていたら、俺は彼女と二度と顔を合わせられなかったかもしれない。

「ソラ?」

 声に振り向いたら、一瞬そこにも鏡があると思った。正体は、ノーメイクの姉だった。天下のアイドル「ホイップ」のセンター様も、化粧無しだと俺みたいな面をしているもんだ。

「なに? 寝不足? 早く寝ないと、肌荒れるわよ」

「たまに帰ってきては、姉みたいな事言うなし」

 それに俺は男だ。肌が荒れようが、枝毛が出来ようが、心の底からどうでもいい。

「そりゃ、姉だもん。弟の心配して、何が悪い?」

 姉だろうと、アイドルだろうと。俺の事もクロの事も、ロクに知りもしない奴に、何も言われたくない。うるさい梨花を無視して、俺は自分の部屋で学校の支度を始めた。