「えっ、鮎川(あゆかわ)、まだ知らなかったっけ? 燈麻、わりぃ」

 佐伯の全く反省していない謝罪。

「で、誰なのよ?」

 鮎川の興味を剥き出しにした追撃。

「言わねえよ! 佐伯も絶対言うなよ!」

「別にいいじゃん、好きな人くらい。減るもんじゃないし」

「そうだそうだ! もったいぶってないで教えろって」

 男子高校生による、いたって普通の恋バナが繰り広げられていた。

 話しかけるタイミングとしては、助け舟を出すという意味でもちょうどいいかもしれない。

「あの、燈麻くん」

 近づいて声をかける。

「ん?」

 燈麻実律と、その友人の佐伯と鮎川。三人分の視線が刺さり、体がこわばる。

「えと、一年生のとき同じクラスだった鳴瀬(なるせ)です」

「ああ、わかるよ」

 クラスでも輪の中心にいることが多い彼が、地味で目立たない私を覚えてくれていたことに、少しだけ驚く。

「今、オカルト研究同好会の調査をしてるんだけど、少し協力してもらってもいいですか?」

「あれ、鳴瀬さんって、文芸部じゃなかった?」

 私の所属している部活まで覚えていたことに、さらに驚いた。

「そうなんだけど、ちょっと手伝いというか……」

 むしろ手伝ってもらっているのは私の方なのだが、どうにか言葉尻を濁して誤魔化す。

「ふーん。もうすぐ練習始まっちゃうけど、すぐ終わるんなら大丈夫だよ。で、何をすればいいの?」

 キラキラした笑顔を向けられる。さすがスクールカースト上位だ。直視できない。