嶺明高校の体育館は蒸し暑かった。私立とはいえ、体育館にまで空調設備はついていない。開けっ放しの入口からたまに吹き込んでくる風がなければ、サウナと同等の効果が得られるのではないかとさえ思う。
私はバレー部の集団を観察していた。
まだ部活は始まっていないようで、練習着に着替えた部員たちがいくつかのグループを作り、床に座って弁当や菓子パンを食べている。
目的の人物はすぐに見つかった。
爽やかな短髪に健康そうな体つきは、いかにもスポーツマンといった風貌。バレー部の二年生、燈麻実律は、爪楊枝でリンゴを食べているところだった。
脇には空になった弁当箱が置かれていて、食後のデザートを楽しんでいる様子だ。一緒にいるのは、同じバレー部の部員と思われる生徒二人。彼らは、食事をしながら談笑をしていた。
まだ弁当を食べている一人が、箸を彼に向けて喋る。
「そういえば、お前あの人とどうなったん?」
「おいっ、ちょっと黙れ佐伯。それと箸を人に向けるな。行儀が悪い」
焦った様子の燈麻実律が早口でたしなめる。
「えっ⁉ あの人って? だれだれだれ?」
弁当箱を片付けていた、もう一人の友人が身を乗り出して反応する。
「ああもう! うるせえ今の話は忘れろ!」
燈麻実律が、両手で頭を抱えて嘆く。