「見せて」

 隣に座った彼は、そう言ってわたしの右手をとる。

 わたしの向かい側にも椅子はあり、そちらが明らかに治療者のポジションなのだが……。

 わざわざ隣に座ってきたことに驚いて、鼓動は高鳴りを増す。

 ひんやりとした彼の手が、とても心地よかった。

「あぁ、ちょっと腫れてるね。すぐ氷持ってくる」

 彼は立ち上がり、製氷機の方へと向かう。
 ガチャガチャと、氷をすくう音が聞こえた。

「ねぇ、あなたは大丈夫なの?」

「ん? 何が?」

「だって、ここ保健室だから……」

 制服を着ているため、この学校の生徒であることは間違いないはずだ。
 だとすると、授業中の今、なぜ彼はここにいるのか。

「ああ、僕は体調も悪くないし、怪我もしてないよ」

 彼はわたしの言いたいことを理解してくれたらしく、そっけない返事をよこす。

 ビニール袋に氷を入れ終えて、椅子へと戻ってきた。

「なにそれ。サボり?」

「そんな感じ。僕のクラスは今、家庭科の授業なんだけどね。はい、これ」

 氷を入れたビニール袋の口を縛って、わたしに渡す。

「ありがと」

 受け取って、突き指をした箇所に当てる。

「どういたしまして」

 律儀に返事をする彼と目が合った。慌てて伏せる。