シャっと、突然カーテンが開き、ベッドに座った男子が現れた。
 わたしは驚いて固まる。

「先生なら、今はいないよ」

 彼はそう言った。

 その瞬間、わたしは恋に落ちた。

 このときに、本物の恋の前では、論理的な思考も、今まで経験してきたことも、何もかもが無力だということを知った。

 この人とわたしは、運命の赤い糸で結ばれている。そう確信した。

 運命を感じる、なんてのは、映画や小説の中だけでの出来事だと思っていた。

 彼との出逢いは、そんなわたしの考えを根底からひっくり返し、新しい世界の扉を開いた。

「ねえ、聞いてる? 先生はいないよ」

 その声で我に返る。指の痛みも忘れて、彼に見とれてしまっていた。

「いない?」

 平静を装って聞き返す。

「うん。今日はお休みみたい。で、どうしたの?」

「え?」

「保健室に来たってことは、どこか悪いところがあるんでしょ?」

「あ、えっと、突き指を……」

 右手の中指を押さえながら、わたしは言った。

「んじゃ、そこ座って」

 彼はベッドから立ち上がって、わたしの方へ近づく。
 高まる心拍数を必死で抑えながら、言われた通り長椅子に座った。