「つっ!」

 右手の中指を襲った激痛に、わたしは思わず顔をしかめる。

 色が、音が、感情が、次々と流れ込んでくる。

 この感覚……まただ。

 月守(つきもり)風香(ふうか)の記憶。

 中学一年生の冬だった。正確な日にちなどはわからない。

 体育館に張られたバレーボール用のネット。痛む指。

 どうやらわたしはボールに当たり、怪我をしてしまったようだ。

「月守さん、大丈夫?」

 気が利く人間をアピールするのにちょうどいいから、一応声をかけておこう。そんな魂胆が透けて見えるようなクラスメイトの声。

「突き指しちゃったみたい。ちょっと保健室に行ってくる」

 わたしは申し訳程度の作り笑顔。

 クラスで孤立している女子が突き指をした。このタイミングで声をかけることで、〝優しい人〟の肩書きを手に入れることができる。そんなところだろう。

 声をかけてきたクラスメイトにとって、わたしは都合のよいアイテムにすぎない。

 わたしは、いつからこんなに歪んでしまったのだろう。
 こんな考え方、自分でも最低だとわかっている。

 自己嫌悪の渦に飲まれそうになりながら、誰もいない廊下を、下を向いて歩いた。

 ノックをして、保健室のドアを開ける。

「失礼します」

 様々な薬の置かれた棚、病人や怪我人が座るための椅子などが視界に入る。ベッドは三台置かれていて、そのうちの一台はカーテンに囲まれていた。

 そんな保健室の中を見回すも、養護教諭は見当たらない。
 保健室特有の、消毒液の匂いが漂ってくる。