けれど。
「うーん。わからないな。私は與くんに対して恋愛感情はないけど。結構前から知り合いだったし……。でも、私が唯一普通に話せる男子だから、特別ではあるかもしれない」
「俺とは普通に話せないのか?」
弓槻くんが、覗き込むように顔を近づけるものだから、思わず後ろに下がってしまう。背中が壁についた。
なおも接近してくる整った中性的な顔に、心拍数が跳ね上がる。
忘れていたけど、弓槻くんだって男子なんだ。
決して嫌いというわけではないけれど、やっぱり男子はまだ苦手だ。
「あ、いや。そういうわけじゃ……ないけど」
「遠慮せずに普通に話していいぞ。その方が、こっちも気が楽だ」
彼は真っ直ぐ私の目を見て言う。
私は目を反らす。
「う、うん。そうする」
そんなに近い距離で言われて、普通に話せるわけないでしょ! 早く離れてよ!
私が心の中で反論していると、
「あっれー⁉ 琴葉じゃん」
はつらつとした元気な声が、廊下に響いた。
「あっ、藍梨⁉」
偶然にも通りかかったようだ。それも、最悪のタイミングで。