「與くん、新作?」
「そう。来月の公募に出すんだ」
與くんは小説家志望で、よく小説の新人賞に応募している。
私も何度か、彼の小説を読ませてもらったことがあった。文章も物語も素人が書いているとは思えないほどクオリティが高く、感心したことを覚えている。実はプロが書いているなんて言われても、私には嘘か本当かわからないと思う。
この文芸部では、文化祭で毎年、部員が一人ひとり、一編ずつ短い小説を書いて部誌としてまとめたものを販売する伝統がある。去年の與くんの作品は、その中でも評判がよかった。
将来、小説家になってもおかしくないのではないか……と思っている。素人の意見ではあるけれど。
「へぇ、自信の方は?」
「うーん。自分では結構面白いと思ってるけど……。審査員の人たちがどう見るか、だよね」
彼は額をかきながら言った。
長い前髪の隙間から、昔刃物で切ってしまったという古傷がチラりと見えた。