奥に、一人の男子生徒がいた。

 入り口から見て正面。壁に沿って机と椅子が設置されていて、そこに座っている。

 その男子生徒――與くんは、パソコンに視線を向けながら、慣れた手つきでキーボードを叩いていた。

 そこは彼の定位置で、もはや作業場となっている。

 作業場というとプロっぽいけれど、あくまで高校の文芸部の部室だ。

 USBメモリの刺さった黒いノートパソコンは、かなり古い型でいつ壊れてもおかしくなさそうに思える。その横には、ペンや定規、カッターやハサミなどが入ったペン立て。印刷ミスをした紙の裏面を使ったメモ用紙も隣に常備してある。ハイテクからは程遠い、いかにも高校生らしい作業場である。

 與くんはヘッドフォンをつけており、私たちが入ってきたことに気づいていない様子だ。ノックをしたときに反応がなかったのもそのためだろう。

 近付いて肩を叩くと、ビクッと体を震わせて驚く。

「ああ、鳴瀬さんか」

 振り返ってヘッドフォンを外し、首にかける。私だとわかって安心したようだ。

 與くんは背が高く、全体的に細い。前髪を目の下まで垂らしていて、暗い印象を与える。声も小さく、人と会話しているところもあまり見かけない。

 内向的というイメージでは弓槻くんに近いかもしれない。