私と弓槻くんは、文芸部の部室に向かっていた。

「でもさ、猫が好きかどうかなんて、どうやって調べるの?」

「そんなの、猫が好きかどうか聞けばいいだけだろう」

「そうだけど……。なんでそんなことを聞くのか、逆に質問されたら困るんじゃない? まさか事情を話すわけにもいかないし」

「安心しろ。ちゃんと適当な理由も考えてある」

 弓槻くんは、教室では絶対に見せないようないたずらっぽい笑みを浮かべる。

 昨日、真面目な顔でさらりと冗談を言ってのける彼の一面を知った私は、少し心配になった。

 私たちは、ある扉の前で立ち止まった。『文芸部』と書かれたネームプレートが掲げられている。

 私は文芸部の部員だからそうする必要もないのだけれど、一応ノックをする。

 シロちゃんの生まれ変わり候補である與くんは、私と同じ文芸部に所属していて、週二回の活動日以外も部室にいることが多い。今日も部室で作業をしていることを期待し、訪問することにしたのだ。

 しかし、ノックをしても、中からは返事がなかった。いないのだろうか。

 私は小声で「失礼します」と言いながら部室のドアを開けた。
 
 文芸部の部室はそこそこ広い。

 入り口のある壁から見て左右の二面を埋め尽くすのは、大きな木の本棚。ハードカバーの小説や文庫本はもちろん、小説作法の実用書からキャラクターの命名辞典まで、物語に関するたくさんの本が並んでいる。

 部員である私が言うのもどうかと思うが、お手本のような文芸部の部室だ。