何も見えず、音も匂いもない、真っ暗な闇。私の存在だけがそこにある。そんな奇妙な感覚だった。

 頭に突然、何かが溢れてくる。それは徐々に風景となって、言葉となって、やがて一つにまとまって――記憶の形になった。 



 視界に飛び込んできたのは、灰色の瓦礫の山、山、山。

 所々から煙が上がっている。

 瓦礫からはみ出している、傷付いた腕や脚はクラスメイトたちのもの。

 クラスメイトって、どこの? 

 高校のではない。

 これは、いつの記憶?

 情報を必死で手繰り寄せる。

 そうだ。これは、中学三年生のとき。それはわかる。

 でも、違う。今から二年前に、私はこんな経験はしていない。

 この記憶は、()のものではない。

 私が中学三年生だったときよりも昔、私が生まれるよりも前(●●●●●●●●●●)のことだった。

 わたしは、私の前のわたし(●●●●●●●)だ。

 どうやら、鳴瀬(なるせ)琴葉が生まれるよりも前、私は別の人間だったらしい。