「それと、この最後の問題、残念ながらできた人はほとんどいませんでした。きっちり解説するので、ちゃんと聞くように」
私も不正解だった証明問題だ。
解答欄は空白で、手も足も出なかった。
「√5が無理数であることを証明する問題ですね。このように、ある数が無理数であることを証明するときは、背理法を使うのが基本となります」
背理法……ってなんだっけ?
習ったような気はするんだけど……。
「背理法というのは、証明したいことと逆のことを仮定し、そこから矛盾を導くことによって、目的の証明を果たす方法です。この問題の場合だと、√5が有理数である、と仮定します。そこから……」
ああ、思い出した。授業でもたしかに習った。その場ではなんとなく理解したけれど、難しいからテストには出ないだろうと思って復習もしなかった部分だ。迂闊だった。
でも今の解説で思い出せたし、解き方も理解した。
家に帰ったら、もう一度解き直してみよう。今は点数が良かったことを喜んでもいいよね。
ふと、隣の弓槻くんに視線をやると、彼は涼しい顔で読書に励んでいた。
数学のテストのことなど、まるで気にしていないかのように、目の前の本に集中していた。
もしかすると、数学が苦手なのかもしれない。
このときはそう思っていた。