昨日に続いて、浮かれた雰囲気が漂う教室。
今日の最初の時間は、数学のテスト返却だった。数学が苦手である私にしては、今回は頑張ったと思う。勉強時間も数学に多く割いたし、本番でもかなり手ごたえがあった。
チャイムが鳴り、ワイシャツをぴしっと着こなした細身の男が教室に入って来る。
榮槇華舞先生。数学を担当する三十歳くらいの教師で、要点をしっかり押さえたわかりやすい授業に定評がある。
授業中にはたまに脱線して、ピタゴラスやオイラーなどの数学界で有名な人物の逸話などを披露することもあり、それがまた面白かったりする。若々しくキリッとした外見と親しみやすさを兼ね備えた、生徒に人気の先生だ。
榮槇先生は、返却する答案用紙と思われる紙の束を教卓の真ん中に置き、両手をその脇についてこう言った。
「今回は残念ながら、思ったよりも平均点が低かった」
いつも優しい榮槇先生にしては、珍しく厳しめな言葉。
本当に出来が悪かったのだろう。いつもよりできていたというのは、私の錯覚だったのかもしれない。一度そう感じ始めると、そうとしか考えられなくなってきた。すぐにマイナス思考に走ることも、私のよくないところだ。
「僕の授業が悪かった、みたいな感じになると校長からクビ切られちゃうので、皆さん次はぜひ頑張ってください」
榮槇先生がおどけてそう言うと、クラスが笑いに包まれる。こういったジョークも上手い。
「それじゃ、テスト返します。呼ばれた人から前に取りにきてください。一緒に模範解答も持って行くように」
次々と名前が呼ばれ、答案が返却されていく。
クラスの大半は、返ってきた答案を見てショックを受けている様子だった。
藍梨にいたっては白目を剥いている。
きっと補習に引っかかったんだろうな。ご愁傷様。