そういえば彼女は、マサハルという男性アイドルが好きだった。
休み時間に耳障りな声で、頻繁にマサハルの話をしているため、わたしは不本意にもそのことを覚えてしまった。
まるでその男性についての知識量の多さが、そのまま人間としてのレベルの高さであるかのように話す彼女を、わたしはみっともないと思っていた。
率直なネーミングも、彼女の頭の悪さを際立たせているように思えた。
「かわい~」だの「にゃ~」だのと、黄色い声が響く。
周りもそうだ。大人数で必要以上に親しさを演じることで、自分たちの持っている価値観を、絶対的なものとして撒き散らす。
どうしてこの世界は、バカがこんなに多いのだろう。
猫を抱いた彼女は周りに応えるように、つまんだ猫の前足を振るように動かす。
ほら。結局、自分たちが楽しくなっているじゃないか。
そんな中、シロちゃんがわたしの近くにやってくる。
私の席は、猫と女子たちからある程度離れていた。
「どうしたの?」
少し青ざめた表情で、猫を抱いた女子生徒の方をちらちら見ている。どうやら怯えているらしい。
「いや、僕、ダメなんだよ、あの――」
暗転。シロちゃんの台詞と共に、月守風香の記憶は途切れた。