急に教室の後ろの方がざわめきに包まれる。

 わたしが振り返ると、すぐにその理由がわかった。一人の女子が、猫を抱いて教室に入ってきたのである。

「この猫、今朝学校の前に捨てられてて。拾ってきちゃった」

 猫を抱いた女子が言った。

 すぐにクラスの女子が集まってくる。

 しかし、わたしは自分の席に座ったまま、傍観者となっていた。

 猫を拾ってきた彼女は、優しさをアピールしたいだけだ。

 本当に猫を助けたいのならば、教室になんか来ないはずだ。職員室に行って、教員に助けてもらうべきだろう。

 そんなことを思いながら、冷ややかな目で彼女たちを見ていた。

「え~、かわいそ~」

「飼い主さいて~」

 猫への同情の言葉と、飼い主への罵倒が飛び交う。

 女子たちが密集している場所は、ちょうどシロちゃんの席の近くだった。彼はわたしと同じように、彼女たちを眺めているだけだった。

「クラスで誰か飼ってくれる人いないかなぁ。あ、アタシ名前も付けたんだ!」

 女子生徒は、猫の前足をつまんで持ち上げると、

「初めまして、マサハルだにゃあ。よろしくにゃあ」

 高い声で、猫に声を当てた。