「一番後ろの五人の席は早い者勝ちだからね。五人揃って私のところに来たら、その時点で決定です」

 先生のその言葉に、一段と教室は騒がしくなる。

 楽しそうな声が飛び交う中、わたしは、斜め後ろの席に座るシロちゃんとアイコンタクトを交わした。

『隣、いい?』

『もちろん』

 そんな会話を、わたしたちは目を合わせた一瞬で行ったのだった。

 言葉は口に出さなきゃ伝わらない、などというきれいごとは、このときのわたしたちの前では意味を持たなかった。

 突然、視界と頭がぼやける。

 クラスメイトの声も途絶えた。

 時空が歪んだ感覚。

 何もない空間を漂っているような浮遊感に、気分が悪くなる。

 時間の概念も曖昧で、どれほど経過したのか、もしくは時間など経っていないのか理解できないまま、私の目と耳に、光と音が戻ってきた。

 教室であることには変わりなかったけど、時期は先程よりも前らしい。

 クラスメイトはみんな、夏服を着ていた。
 わたしの座る席は、先ほどと同じ場所だ。

 楽しそうに話す声があちこちで交わされる教室の中で、わたしは一人、本を読んでいた。

 月守風香が体験した、また別の記憶のようだった。