「一つ、お願いがあります」

 私は立ち上がったまま、彼を見下ろしながら言う。

「なんだ」

「冗談を言うときは、今から冗談を言う、と宣言してから話してください。弓槻くんは、真面目な顔で冗談を言うので、心臓に悪いです」

 私にしては珍しく強気な口調。

「……それじゃあ冗談の意味がないだろ」

「それは……そうですけど」

 わかりやすくしおれる私を見て、彼はフッと笑う。

「わかった。善処しよう。それより、俺も君に一つ要求したいことがある」

「は、はい」

 何を要求されるのか、ビクビクしながら彼の言葉を待った。

「敬語はやめてくれ。同学年だし、普通に話してほしい。堅苦しくて息がつまる」

「わ、わかりま……じゃない。わかった」

 慌てて言い直す。

「えっと、ありがとう、弓槻くん。いきなり知らないはずの記憶がよみがえってきて、怖かったの。だから、弓槻くんに力になってもらえて、本当に心強い。よろしくね」

 安堵によってあふれてくる言葉は、そのすべてが紛れもない本音だった。

「気にしなくていい。俺は、生まれ変わりという現象に興味があるだけだ。君の力になりたいから協力するわけじゃない」

 何もない部室の壁に視線を向けながら、ぶっきらぼうに紡がれた彼のその言葉は、根拠はないけれど、本心だとは思えなかった。

 私に対する気遣いと、ほんの少しの照れ隠しだと思う。

 彼の優しさを知った今だからわかることだった。