「ちなみに、こいつは高いところが苦手なんだ」

「猫なのにですか?」

 猫といえば、バランス感覚が優れていて、高い場所にも平気で上るイメージがある。

「ああ。ちょっと持ち上げてみればわかる」

 私は言われた通り、チョコを抱き上げる。

 弓槻くんがサッとその場を離れた。

 抱きかかえた瞬間は問題なかったが、高い高いをするように、私が天井に向かって持ち上げた瞬間、チョコの様子が一変した。

 いきなり暴れて、私の腕に猫パンチを繰り出したのだ。

「痛っ」

 私がひるんだ隙に、手からすり抜けて、床に着地する。

 そして、
「フーッ!」
 威嚇された。

「ご、ごめんなさい」

 思わず謝罪をする。

 どうやら、本当に高いところが苦手みたいだ。

 爪は出ていなかったようで、私の腕に傷はついていなかった。

「前より暴れ方がおとなしいな。もうかなり年をとってしまっているからかもしれん」

 チョコの攻撃を回避するために離れていた弓槻くんが、近づいてきて言った。

「え?」

 チョコに視線をやる。まったくそんなふうには見えない。

「出会ったころよりも食欲が落ちているし、目も濁っている。いつ寿命がきてもおかしくない状態だ」

「そう……なんですか……」

 予想外の深刻な話に、私はそれしか言えなかった。