校舎から出た瞬間、モワッとした熱気が襲う。
七月のある日の昼下がり。見事に晴れ渡った青空が眩しい。
じっとしたまま突っ立っていれば、数分で焦げてしまうのではないかとさえ思う。外は風もなく、冷房の効いた校内が愛しい。
「琴葉! じゃあね」
昇降口を降りたところで、友人の澤幡藍梨に別れのあいさつを告げられた。
「ん。じゃあね、藍梨」
私は駐輪場へ、藍梨は校門のすぐ近くにあるバス停へと歩く。
私たちの通う私立嶺明高校は、最寄りの駅からそれなりに離れた場所に建っている。ほとんどの人が無料のスクールバスを利用する中、私はわざわざ自転車を使って、駅から学校までを往復していた。
私がバスを利用しない理由はいたって単純。バスが怖いからだ。どうしてかわからないけれど、小さいころからなぜか、バスに対して体が拒否反応を起こしてしまうのだ。
別に、乗り物全般がダメだというわけでもない。実際、電車を使って通学しているし、車にも船にも、飛行機にだって乗れる。
でもどうしても、バスだけはダメなのだ。
その面積の二、三割程度しか使われていない、寂しい駐輪場にたどり着く。
錆だらけの自転車や、暴走族が乗るような時代錯誤のバイクが放置されていて、高校の施設として機能しているとは言い難い。たしかに、使用するのはほんの一握りの生徒だけではあるのだが……。