「チョコ……」
柔らかい体を丸めて後ろ脚を舐めるチョコは、私を見上げると「ミャー」とひと鳴きし、毛づくろいを再開した。
非常にかわいい。
「弓槻くんが名前をつけたんですか?」
「ああ。……いや、少し違うな。俺がチョコと出会った日の話をしよう。あれは、去年の今ごろだったと思う」
弓槻くんはそう言って、昔話を始めた。
「ある日、俺がこの部室でチョコレートを食べていたとき、チョコ……猫の方のチョコが現れた。ドアは閉め切っていたし、俺が部室にいない間は鍵も掛かっているはずなのに、なぜ入れたのか、それが不思議だった。霊的な力で空間を超えて出現したとしか思えなかった。あとで見てみたら、ここは俺が入学する前からこんな状態だったらしいから、霊的な力でもなんでもなかったようだがな」
ガラスの割れた部分に、雑に貼り付けられている段ボールをひらひらさせながら、弓槻くんは言った。
「へぇ。チョコレートを食べてるときに現れたからチョコ……」
他に突っ込みどころがあった気がしたけど、何も言わないでおこう。



