きっかけはささいなことだった。

 私が小学校低学年のとき、目の前で、二人の男子が殴り合いの喧嘩を始めたのだ。

 喧嘩の原因や、そのあとどうなったかなど、細かいことは覚えていない。たかが小学生の喧嘩で、大怪我などもなかったと記憶している。

 ただ、当時の私にとっては強烈な出来事で、男子は怖い生き物だという認識がすっかりできあがってしまった。

 この年にもなれば、子ども同士の殴り合いの喧嘩くらいよくあることだとわかっていて、怖がる必要などないことは頭では理解しているつもりだけど、一度頭に絡みついた恐怖はなかなか消えてくれない。

 それから、男子とはできる限りかかわることを避けてきたため、今でもどう接していいのかわからない。

 そんな経験不足が、そのまま男子に対する苦手意識となる。負のループ。

 結局、苦手意識を克服することなく、私は高校生になってしまった。

 恋愛に興味がまったくないわけではないけれど、誰かと恋人同士になるなんてことは、私にとっては高すぎるハードルでしかなくて。

 藍梨は『テキトーによさそうな男と付き合ってみなよ』なんて、あたかも男を自動販売機で売っているもののように言うけれど、私はちゃんと好きになった人と付き合いたいのだ。

 でも、男子とかかわりを持つことを避けている私が、男子を好きになることなんてないと思う。

 怖さと憧れ。
 矛盾したこの気持ちに、折り合いをつけられる日はくるのだろうか。

 いつか自然に、人を好きになれたらいいのにな、と思う。