「そんなに弓槻と噂になるのが嫌なの? あいつ暗いけど結構イケメンじゃん。カッコ良いって言ってる女子も何人かいたよ」
たしかに、弓槻くんは顔立ちも整ってるし、ダークな雰囲気で一部から人気はありそうだ。
「いや、私じゃなくて弓槻くんが困るかなって」
私のその言葉に、藍梨は一瞬きょとんと真顔になり、すぐに破顔する。
「もぉ、琴葉はもっと自分に自信持ちなよ! 琴葉はすごく可愛いんだから」
何を言い出すのかと思えば……。
「え? 私が可愛い? どこが?」
私は怪訝な表情を隠すこともなく、首をかしげる。
「あー、もう! そういうところだよ!」
藍梨が、ぐりぐりと私の頭を撫で回す。
「琴葉が男子と普通に話せれてれば、今ごろ彼氏が十人はできてるよ」
十人って……。
「そんなにいらないよ」
ぐちゃぐちゃになってしまった髪を整えながら、私は言った。
その後はなんでもない雑談をしていると、チャイムが鳴って弓槻くんが戻って来た。藍梨も自分の席へと帰って行く。
藍梨の言う通り、私は男の人と喋るのが苦手で、恋愛に対しても消極的だ。当然、交際経験はナシ。
男の子に告白されたことは一度だけあるのだが、緊張のあまり何も言わずにその場から逃走してしまったという前科を持っている。