「何?」
本から目を離すことなく、彼はぶっきらぼうな声で応じた。この時点ですでに、私は涙目になりそうだった。
「きょっ、今日の放課後って、時間ありますか?」
慌てて喋ったせいで、少し大きな声になってしまった。
弓槻くんはやっと本から視線を上げて、私をジロジロ眺めて「まあ。あるけど……」と呟いた。
「あっ、ありがとうございます」
お礼を言うのも少し違う気がするが、一方的に拒絶されなかったことに安心した。
チャイムが鳴って、担任の教師が教室に入ってくる。弓槻くんは再び本に視線を落とし、私は前を向く。担任が話をしている間も、私の心臓は早鐘を打っていた。
「――ああ、それからですね。屋上のフェンスが老朽化していて危ないので、屋上には行かないようにしてください。まあ、そもそも立ち入り禁止なので、大丈夫だとは思いますが」
そんな担任の話す声も、音としては拾っていたけど、私は意味を理解しないまま忘却してしまう。