そんなことを考えていたとき、ドサッ、と右隣で音がした。白いスクールシャツに身を包んだ男が、通学鞄を乱暴に机に置いた音だった。
彼は椅子を引いて着席し、何やら難しそうな本を取り出す。男子にしてはサラサラの髪が、フワッと揺れる。バッグを机の脇のフックにかけると、取り出した本を開いた。
彼の名前は弓槻架流くん。私の隣の席の男子だ。
暗くて無愛想。それが、彼に対する私のイメージ。クラスメイトの多くも同じ印象を抱いていると思う。
何度か彼と事務的な会話をしたことがあるが、毎回彼の鋭い視線に怖じ気づいてしまう。だけど、暴力的だとか自分勝手だとか、全くそんなことはない……と思う。ただ単に、人と接することが苦手なだけかもしれない。
そういった都合のいい解釈もあり、私は勝手に、彼に親近感を抱いていた。けれど、話しかけようとか仲良くなろうとか、そういったことはまったく思わなかった。
難解そうな本を、器用に左手だけで持ちながら読み進める。視線の動きを見るに、本を読むのがかなり速い。私も文芸部で、本は多く読んでいる方だけど、スピードでは負けるだろう。
ちらっと見えた本の表紙には『日本人の8割が火星からの使者』のタイトル。思わず二度見をする。どんな内容なのか、ちょっと気になってしまった。