自分史上一番と言ってもいいくらいに頭を悩ませた私を乗せた電車が、嶺明高校の最寄り駅に到着する。
カメラとマイクを抱えたテレビ関係の人たちが『最新の記憶書き換えシステムによるドッキリでした~』なんて言いながら話しかけてきてくれたら、どれだけ楽だっただろう。
改札を抜けてもそんなことは一切起こらず、いつも通りの風景が私を待ち受けていた。
スクールバスの停まっているローターリーを通り過ぎて、駅前の駐輪場へと向かう。学校までの道を、いつもより注意深く自転車を漕いだことは言うまでもない。
「おっはよ~」
「おはよう、藍梨」
教室に入り、澤幡藍梨とあいさつを交わす。
彼女は、私の一番親しい友人である。明るく社交的で友達も多い。全体的に小柄であり、パッチリした瞳と薄い唇も相まって高校生らしからぬ幼さを醸し出していた。茶色く染めた髪を両脇で結んだツインテールが、そのあどけない顔立ちによく似合っている。
成績は……非常に言いにくいのだが下の下だ。いわゆる、やればできる子というやつであって、決して彼女の頭が悪いわけではない。頭の回転は速い方だし、会話からもたしかな知性が感じられる。
藍梨の成績が悪い原因は単純明快。彼女は多趣味であり、様々な趣味に熱中しすぎるあまり、勉強に手が回っていないのだ。
本人曰く『一度しかない人生だから、なるべく色んなことを体験したい』とのこと。
私にはない考え方で、ちょっと羨ましかったりもする。