「風斗くん、おはよう。僕のことは、もう覚えてくれた?」
榮槇先生が目線を合わせるようにしゃがむと、風斗は楽しそうに笑った。
風斗は榮槇先生と何度か会っているが、彼の顔を見ると、決まって嬉しそうに笑うのだ。
私はそのたび、ほんのちょっとだけ嫉妬する。
「風斗にはね、名前をくれた人がいるんだよ」
愛しい息子を抱き上げて、私はゆっくりと言った。
まだ言葉が理解できない一歳の男の子は、哺乳瓶を大事そうに抱えて、見慣れない景色を不思議そうに観察している。
「風斗に名前をくれた人は、ここにいるんだ」
私は墓石を見ながら、風斗の頭をなでる。
「ときどき、風になって会いに来てくれるんだよ」
風斗は、お墓をじっと見つめていた。
まるでそこに、月守風香がいるかのように。
やがてキャッキャと笑い始めた風斗を見て、私たちは顔を見合わせる。
「もしかして、見えてるのかな」
「そうかもしれないな」
私が呟くと、架流がそう答えた。
榮槇先生は、どこか遠くを眺めているような表情で黙っていた。
三人で墓石を掃除し、花と水を供えて線香をあげた。
目をつむって手を合わせる。
その瞬間――風が吹いて、落ち葉が宙に浮いた。
舞い上がった色とりどりの枯れ葉は、その場でくるくると回転する。
風斗はそれを見て、またキャッキャと笑った。