ちなみに、架流も大学を卒業してからは、嶺明高校の数学教師として働いている。

 教師になると聞いたときは意外だと思ったけど、生徒からの評判は上々らしい。

「榮槇先生、この人ったら、高校生のときから全然変わってないんですよ。真顔で冗談は言うし、コーヒーには砂糖とミルクを入れすぎるし……」

「このやり取りも毎年聞いてるな」

 微笑ましい目で見られてしまった。

 年をとって大人になっても、榮槇先生からすれば、私たちはずっと生徒なのだろう。

「そういえば、風斗(ふうと)くんは、風香に会うのは初めてだっけ」

 榮槇先生がベビーカーを覗き込む。

「そうなんです」

 私と架流、そして榮槇先生の三人は、黙って目的地へと歩を進めた。
 ときおり、線香の香りが漂ってくる。

 数分もしないうちに、月守風香のお墓の前に到着した。

 十一月十九日。
 今日は、彼女の命日だった。

 ベビーカーに収まっている風斗が目を覚ました。
「うあー、あぁー」

「はいはい。あー、起きちゃったかぁ」
 私はしゃがみ込んで、風斗に哺乳瓶をくわえさせる。