「琴葉はいいよねぇ。素敵な旦那がいてさ」
「べ、別に素敵じゃないって、あんなやつ」
とっさに否定したけど、本気でそう思っているわけではなかった。
首から上が熱くなったのは、たぶんお酒のせい。
「しかも教師! 公務員! 安定した将来! ああ、うらやましい!」
「たしかに安定はしてるかもしれないけどさ。教師なんて、残業が多くて大変だよ? それに燈麻くんだって公務員じゃん」
燈麻くんは市役所の職員だ。
「そうだけどさぁ。もっとこう、なんというかさぁ、派手な感じの男はおらんのか!」
言っていることが滅茶苦茶だ。
藍梨は酔うと、絡み方が面倒くさくなってくる。
「ほら、水飲んで」
仙田くんの叔父であるマスターが、気を利かせて持ってきてくれた水を飲ませる。
「プハッ! 私も石油王と結婚したいよぉ。玉の輿がいいよぉ」
毎回そんなことを言いつつも、なんだかんだで燈麻くんとの交際が続いているところを見るに、藍梨が純白のドレスを着る未来もそう遠くないのではないかと思う。もちろん横にいるのは燈麻くんだ。
「それなら伊凪くんがいいんじゃない?」
もちろん冗談だけど。
伊凪くんは、全国でもトップレベルの大学の医学部に合格し、校内でちょっとしたニュースになった。
現在は大学病院で働いている。将来的には開業医である父親の跡を継ぐそうだ。
「やらぁ! みのくんがいいのぉ!」
ほら、やっぱりラブラブじゃないか。