カフェ&バー『D-HAL(ディーハル)』の店内は、相変わらずお洒落だった。

 時刻は午後の九時半を過ぎている。
 カフェの姿をしている昼に比べると、さらに一段階落ち着いた雰囲気。薄暗い店内はムードに満ちていて、ジャズ調の音楽が耳に心地よい。

 大学生のときは、よくコーヒーを飲みながらレポートを書いていた。
 ここのコーヒーの美味しさは格別で、安価なインスタントのものでは満足できない舌にされてしまった。

 お酒を飲める年齢になってからは、夜にも何度か利用したことがある。
 マスターの作ったカクテルは、コンビニなどで売っているものとは一線を画していた。

 そんな『D-HAL』のカウンター席に、私と澤幡(さわはた)藍梨(あいり)は並んで座っていた。

 藍梨は二十七歳になってもやはり童顔で、まだ高校生と言っても通用するのではないかとさえ思える。

 高校時代にツインテールだった髪は、今はポニーテールになっている。こちらもよく似合っていた。

仙田(せんだ)く~ん、おかわり~!」

「かしこまりました」

 呂律が回らなくなり始めた藍梨の注文に、カウンターの内側にいる仙田朔矢(さくや)が爽やかに応えた。